史実での一幕。
グローリーゴアという馬は周囲からはヒーローとされながら、その実、同性異性問わず他馬に興味の欠片が毛ほどもなかった────それまでは。
「……!」
ブルルっ!と武者震いして。
そこにいた小柄な───牡馬に向かっていって。
「ストップストップストップッッッッ!!!!」
瞬間、上に乗っていた人間含む皆に止められた。
─────もちろんグローリーゴアはキレた。
大いに大いにキレた。
なにせ自分を負かした相手なのである。
しかも息も絶え絶えな自分と違うケロッとした呼吸音。
そして先程見せられた走りを合算すると───この馬との子どもが欲しい。
単純明快に、種としての本能がそう告げる。
しかし、この馬との子どもを作るには、考えてみれば時期尚早。
「ブルルッ」
「わ、分かってくれたか…」
グローリーゴアは考える。
そして決意する。
『この馬との子どもを作ろう』と。
……そう決意してからのグローリーゴアは凄まじかった。
今まで以上に走り込み、調教に励み、時には騎手を振り落とし、時にはファンサービスしてみたりテレビの取材があったり。
彼のことを一番よく知る陣営が『なんか変なもん食ったんじゃないか…?』と慄く程度には真面目になった。
それもひとえに…、
「落ち着け、落ち着け…」
「……」
「いや、まあ…興奮()してないだけマシか……」
目の前のこの小柄な馬をモノにするため。
馬体がくっつくほど寄り添ってきた自分を不思議そうに見つめる目はどこかぼんやりとしており、興味らしい興味はなく見える。
「あ、やべ」
興奮()を気付かれてしまった。
慌てて落ち着こうとするも時すでに遅し。
上の人間に引っ張られて。
(…あぁ、)
その間に小柄な馬はこれ幸いと離れていった。
他の馬なら喜ぶ通り越して気絶してもおかしくないグローリーゴアからのアピールを、ガン無視された。
「ブルルッ」
結果、「ヒィ」と情けない声と共に、騎手が彼にしがみついたのはご愛嬌。
……それからもグローリーゴアのアピールは続く。
(この馬との子どもを作るためには)
(まずこの馬に勝つこと)
(これが第一条件だ)
小柄な馬は速かった。
グローリーゴアでやっと追いつけるぐらいだから他の馬なんて。
『レース』というよりも『蹂躙』だったそれ。
(それでも)
今回もこの馬に負けるとしても。
(絶対勝つ)
執念を燃やしてグローリーゴアは走る。
*
(やっぱり言葉通じないなあ)
生まれ故郷から離れた地で思う。
それはそれとして、
(ここも張り合いがないし…)
自分に追いついてくれる存在もあの大きな栗毛の子ぐらいで…。
(面白く、ないなあ)
実は初対面のBCクラシックからハロン棒こんにちはして迫ってたよっていう。