俺はキミの父に惚れていた。
だからその息子であるキミに『夢』を見たのは"必然"で。
あの阪神3歳ステークス。
誰も彼もを引き連れてたった一頭やってきた姿に、遠き日の流星の貴公子を思い出して。
関西の期待馬に一気に上り詰めたキミに夢を見ていた。
キミなら、今度こそ、今度こそ、クラシックを、三冠を獲ってくれるんじゃないかって。
まるであのころ見た夢の再演みたいに。
東には天馬の息子・ミスターシービーがいた。
良血と零細。
父の脚質とは真逆の追込/逃げ。
東と西。
だがキミは来なかった。
不幸にあったのだと聞いた。
あれほど落胆した話もなかっただろう。
けれど、1984年の毎日王冠。
出走できなかったクラシックの無念を晴らすように、キミは三冠馬となったミスターシービーに打ち勝った。
東のヤツらは『まぐれだ』とか何だとか言ったけど、西の僕らはキミに大歓声をあげた。
それからキミは何度も怪我をしては不死鳥のごとく舞い戻ってきて、いつ表舞台にやってくるのかとヤキモキして、待ちかねて、そして、
『遅れてきた怪物が、戦い続けた古強者が今!ターフを支配する!
老いぼれと侮ってくれるな!シルバーバレット逃げ切った!』
いっとう大きな『夢』を見せてくれた。
どれほど待たせれば気が済むんだなんて泣きながら叫んだものだった。
そして「おめでとう」とも。
そんな、小さな、ちっぽけな『夢』はいつしか大きく育って、その『夢』をキミは乗せていった。
すべてを背負い込んで走って走って走って、『夢』の果てを僕らに見せてくれた。
けれど、
「うそ、だろ…」
キミは帰らなかった。
『夢』なら醒めてくれと思った。
こんなの嘘だ、って。
キミのために横断幕だって用意してたんだ。
仲間内からは『もし負けたらどうするんだ』って苦笑されたけど、コレが一番キミに似合うって。
キミに『夢』を見ていた人はいっぱいいたんだ。
キミの帰りを待っていた人はいっぱいいたんだ。
どうして、どうして…。
「…にげるな、にげるなよ、今になって、逃げんじゃねぇ!」
『敗北を知りたい』。
そう書かれた横断幕がひどく空しい。
また、キミに『夢』を見た仲間たちもひとり、またひとりと消えていった。
キミのいない世界が、耐えられないと言って。
キミ以外が走っている姿を見ると、憎くてたまらないと言って。
あぁ、あぁ、あぁ!
キミさえ!
全部丸く収まったのに!!
「お前のせいだ!"シルバーバレット"!!」
こんな終わりなんて駄作中の駄作じゃないか!
…
あぁ、嗚呼…!
「お前さあ、あんなにさぁ速かったんだからさあ、ひとっ飛びって、走って、戻ってくるぐらいしてみろよ…!
待ってるんだから、ずっとずっと待ってるんだからさあ…!」
なぁ、
……それは、未だ醒めない『悪夢』の話。
誰か:
関西在住でヒカルイマイの会に所属している人。
もともとヒカルイマイに惚れ込んでいたところ、現れたヒカルイマイの息子である僕に『夢』を見る。
いつしかヒカルイマイよりも僕に惚れ込んでいき、『敗北を知りたい』との横断幕を作る。
出来上がった横断幕を僕の引退式に披露しようとしたら…、ね?
他にも僕のことを好きだった・愛していた仲間がいたけどその誰もが僕が没したあと、競馬から離れていった。
彼らが言うには『彼がいない世界が耐えられない』『彼がいなくなったのに他の馬が走っているのを見ると憎くなる』とのこと。
愛しさ余って憎さ100倍になってるけどそれでも僕を嫌えない人。
ずっと帰りを待っている。
僕:
シルバーバレットという名のウッマ。代わりなんていない存在。
ちゃんとファンに愛されていたタイプのウッマ。
観客には"サラ系"とかそういうの関係ないからね。
しかし脳はすべて丸焼きにしていった模様。
また、どう足掻いたって『夢の第11レース』には選ばれない競走馬。
それにはたくさんの非難が来るけれど、疵が、癒えないままなんだ。
…だから、仕方ないでしょう?