さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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お互いを大切に思うけれど。



あなたがため

白峰遥は基本他人に興味が無い。

それは自身の同期をろくに覚えていない有り様から嫌でも察せられたし、陰口を叩かれようが一切反応しないところからも明らかだった。

しかしそれは、裏を返せば興味が無いからどんな陰口を叩かれようがどうでもいい、という風にも受け取れる。

そんな白峰が、わざわざその情報に反応を示した。

そして、そのことが意味するのは────。

 

「あんなに怒らなくても」

「お前、僕には怒れって言ってくるくせに」

「うっ、」

 

自分のことなら気にしないが、自身の心の内に入れた人間が馬鹿にされているなら、怒る。

普段の様子と比べると嘘のような感情の出し方だったが故に、そう言ってもらえた後輩-白山晴人は思わず頰を熱くする。

それを紛らわせるように話題を変えた。

 

 

ビリリ、と肌に感じるような空気の張りつめた感覚は久しぶりだった。

その感覚を味わうのは、先輩との初対面の時以来だろうか。

しかしあの時とはまた少し異なる空気感だ。

それは、先輩が怒っているからだろう。

先輩が怒るのは珍しい。

というか、あの言われようで今まで怒りを顕にしなかったことが異常なのだ。

だから怒りを向けられている有象無象は、その圧倒的な威圧に怯んだりたじろいだりしている。

普段は底の知れない暗さが怒りによって浮き出されていて、俺としてはそれがどこか…嬉しかった。

いつもと雰囲気の違う先輩はそのまま話を続ける。

基本的に先輩は男女問わず「あなた」と呼ぶが、感情的になると「アンタ」と呼び捨てになる傾向があるなとか、考えるのは俺が思考に逃げているからか。

まったく関係のないことを考えながら話を聞いていると、また視線に気づいた。

誰から見られているのかなんて考える必要もなく分かりきっているし、視線だけでもわかる感情の苛烈さに、場違いな感想が浮かぶ。

 

(嬉しい、なぁ)

 

俺、先輩にこんなに思われてるんだって。

でも、

 

「せんぱぁい、そろそろ時間ですよ」

 

そう声をかけると先輩はハッとする。

そして、その怒りを一瞬で霧散させると、いつもの先輩に戻った。

その切り替えの速さに思わず笑ってしまう。

そんな俺に先輩はジト目を送ってくる。

……その視線すら愛おしいと思ってしまうのは、重症だろうか?

俺は先輩の手を引いて歩き出す。

もう、あの視線は感じない。

 

 

(まったく)

 

白峰遥は内心ため息を吐いた。

後輩がいつも自身のために怒ってくれることは嬉しいが、それはそれこれはこれだと言いたい。

そもそも白峰遥は自身を蔑ろにすることは多々あれど、他人を蔑ろにすることはない。

それが好きな人であるなら尚更だ。

しかし悲しいかな、そんな事情を白峰遥を知る者が理解する術はない。

白峰が他人のために怒るなどと思ってもいないため、怯えるばかり。

そもそも白峰遥は勘違いされている。

強い、かっこいい、天才、規格外……そんな印象を持たれているが、白峰自身はスポーツを何かやってたわけでもないし、勉強だって並かそれ以下の学力しかない。

そんな自分のことを評価してもらうなど恐れ多いし、的外れも甚だしいとすら思う。

だから、そんな白峰遥の内面を知る者は少ない。

ので、その数少ない一人である後輩-白山晴人を白峰遥は大切に思っているのだ。





実は素が「僕」な白峰甥と素が「俺」な後輩白山(表向きは「俺」と「僕」)。
ちなウマのシルバーチャンプも素は「僕」だったり…。
育ちがいいからね。
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