さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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…ではあるけれど。



初恋

クロスグレイの好みが実父であるシルバーチャンプだというのは有名な話で。

まだ幼駒の時代にクロスグレイの母含め、その牧場の牝馬に種付けしに来たシルバーチャンプを一目見るやいなや驚くほどの素早さで柵を飛び越えたかと思えば…。

 

「待て待て待て止めろ止めろ止めろ!!」

 

一直線に向かっては、といった具合いに。

それまで母親以外の同族に興味のひと欠片もなかったクロスグレイの興味を引けたのはまだいい。

だが…襲いかかろうとするのは、違うだろう。

そういうわけで、てんやわんやの大わらわに大捕物があってはあえなく捕らえられたクロスグレイであった。

 

 

───一目惚れだった。

自分と同じくらいの小柄な体に、美しい芦毛をもった馬。

誰にも渡したくなくて、いの一番に駆けた。

近づけば分かる。

心を奪われる。

キラキラと輝く白い毛並みが、その光と共に脳を焼き焦がす。

とにかく、誰がなんと言おうとこの馬が欲しい。

勢いよくのしかかろうとすればいつも放っておく奴らが慌てて俺のことを捕まえようとしてきて苛立ちのまま暴れようとした…が。

 

『だめだよ』

 

高くも低くもない、涼やかな声。

 

『このこはね、まだこどもなの。だからやさしくしてあげて』

 

そう言って俺を庇う華奢な体。

振り返った優しい眼差しが俺に向けられていて、思わず動きを止める。

……いや待て違うそうじゃないだろう!と正気に戻ったのはそれから少し経ってからで……。

 

(────ハッ、)

 

ろくに話すこともできないまま、惚けている間に件の馬は帰ってしまっていて。

その日から俺は……。

 

 

(強そうな子だったなぁ)

『おけーり』

『はい、ただいま帰りました』

 

帰ってくると先輩が馬房(へや)から顔を覗かせて擦り寄ってくる。

『今日もまた随分とお相手したみたいだな』との言葉に『ありがたいことです』と返せば明らかに不機嫌そうに。

 

『先輩だってモテてるでしょうに』

『…お前の方がモテてるだろ。ここのトップ層の連中と同じような数こなしてるくせに』

『ははは』

 

元々は生まれ故郷で過ごしていたけど子どもたちの大活躍もあって生まれ故郷ではキャパオーバーに。

そのため色々と揃っている此処に移動してきたわけだが…うん。

 

『先輩と出会えて良かったです』

『…おー。いきなりどうした』

『だって不安だったんですもん。生まれ故郷は大半が俺の家族と昔からいる古株の方たちばかりでしたし』

『人気者だろ、お前は』

『でも一番初めに話しかけてくれたのは先輩でした』

 

だから。と続けようとしたところで先輩の顔が目の前にあって思わず固まる。

……え、何? 俺何かしたっけ??

困惑していると先輩が一言。

───お前、他の奴にはそれ言うなよ。

 

『言いませんよ!…そもそも先輩以外とは仲良くないのに』





あの母の子だからね、惚れさせてもおかしくないよね。
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