ただのライバルだったのに。
「……」
はじめは、研究の一環だった。
誰もが認めるライバルとなったあの子の走り方とか、弱点とかを見つけるために作った部屋。
写真やら雑誌の切り抜きやらビデオやらが回っていて…はじめは、本当に健全だったのだ。
それがいつからだろう、変わったのは。
「……」
レースの時のあの子が押し出されていく。
壁や画面に映るのは普段のあの子。
レースの時の苛烈さが嘘のような、やさしくて穏やかないつものあの子。
あの子のことを知っていくほどに、ダメな方向に僕は変わっていった。
ライバルという枠組みを覗いてもあの子が僕以外を見るなんて許せなくて。
他の相手と仲良くしているところを見ると胸の奥がモヤッとして。
……あぁ、僕はあの子のことが好きなんだと思った時にはもう遅かった。
……手遅れだったのだ、本当に。
けれど今、僕の目の前にはあの子の寝顔があるわけで……。
(……かわいい)
思わずその頬に手を伸ばすもすぐに引っ込めた。
これ以上触れればきっと止まれない。
その自信があったから。
(でも……)
もう後戻りなんてできないのだ。
この想いは止められないし止めるつもりもないのだから……。
そう自分に言い聞かせるように心の中で呟く。
キミのせいでおかしくなっちゃった、なんて責任転嫁のような言葉が頭の中で浮かんでは消えていく。
……それでも、この子が欲しいという気持ちは本物で。
その想いが抑えられないからこそ僕はキミを欲しているわけで。
(こんな僕に愛されるような資格はどこにも無いってわかってる)
何度も諦めようとした。
もう何も望まないからと誓ったのだ、今日も!
……それなのにどうしてだろう、いま僕の目の前にはその誓いを破らせるかもしれない子が居るなんてね。
そんなの許されるわけがないじゃないか?
いや許されないよ絶対に!
だってそうだろう!?
キミと僕は運命のライバルだ。
みんなそう言うし、みんなそう望んでる。
なのに…。
「ぐろーりー…?」
寝ぼけ眼のキミが僕の頬を撫でる。
その仕草に思わずドキリとした。
あぁもう、キミって子は本当に……。
(……ずるいよ)
そんな顔をされたらもっと触れたくなってしまうのに!
でもダメだとわかっているからこそ僕は必死に我慢する。
「ねむれないの?」
伸びた手がゆるりと僕の首に回る。
その手に導かれるよう横たわればまるで幼子にするようにぽんぽんと背中を優しく叩かれた。
……それが心地よくて思わず目を細めるとキミが笑った気がした。
その笑顔に胸が締め付けられるような感覚を覚えながらも僕はされるがままでいた。
(あぁ、やっぱり好きだなぁ)
そんなことを考えているうちに段々と意識が遠くなっていくのを感じる。
そして最後に聞こえた言葉はとても優しいもので……。
おやすみ、良い夢を……なんて。
まぁお互いにデケェ矢印で刺しあってるんですけど。