さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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はてはて。



それより前に

むかし聞いた怖い話がある。

いわく、その家には『座敷わらし』がいたようで…というか座敷わらしというよりかはどこか遠くから来た旅人がその知恵を宿食の礼に披露したところ、その家の主人がたいそう喜び、しかもその知恵が随分と役に立ってしまったため…という。

とはいえ、『座敷わらし』と言っても元は旅人である。

そろそろ次の土地に行きたいと言い出した旅人を、しかし主人は引き止めた。

引き止めた…のはいいが。

 

「物理だもんなぁ」

 

何をどうしても『座敷わらし』が出ていこうとするから。

出ていけないように、逃げられないようにした。

だから家の四隅に埋まっていて、『座敷わらし』は今も逃げられないまま。

 

「すごい執念だ」

 

思わずため息をついてしまうほど。

それが欲と言われてしまえばそれまでだけども、それほど離したくない存在がいるなんて!

 

「そういうことも、あるんだね」

 

それはそれとして。

 

「僕には分からない気持ちだ」

 

そうするまでに誰かを引き止めたいってのも。

そうしてまで傍にいて欲しいってのも。

僕には、分からない気持ちだ。

 

「でも」

 

それでも。

 

「そういう誰かに出会ってしまったら……」

 

僕はどうするんだろう?

そうして……誰かを引き止めてしまうんだろうか?

それとも僕自身がそうなるのかしら?

 

「…」

 

なんてことを考えるが、答えは出ない。

今は、まだ。

 

 

「とか思ってたけどさぁ」

 

あの思考から早数年。

僕は共に過ごす人を選んだ。

他人が言うには誰を選ぶか悩むなんてラインナップだったようだけれど、僕としてはそんなつもりは全くなかった。

ただ『いいな』で選んだだけ。

だから誰を選ぶか悩んだわけじゃないし、そもそもアプローチされてたという自覚すらなかった。

 

「なのに」

 

なんでこうなったかなぁ?

いや違うんだ!

僕はいつだって飲み会とか友だちと遊びに行ったりしてきていいよ!って言っているのに!

なのに、どうしてキミは!!

 

「…むぅ」

 

いやもうほんと、なんで? というか僕なんかにそんなに執着しなくても良くない?

もっと他にいるでしょ?って言いたいんだけど……。

なんでか言えないんだよなぁ。

なんでだろうなぁ。

なんでなのかなぁ……。

 

「……はぁ」

 

ああもう。

とりあえず今はご飯だ! お腹空いたし!ご飯食べよう!ねっ!?

 

「ん」

 

そう言って慣れた手つきで手伝いを始めようとする後ろ姿に着いていく。

 

「はぁ…」

 

閉じ込めるよりも先に、自分から帰ってくるじゃん…。

もはやメリーさんとかそういう類いなのか?

知らんけど。





僕:
シルバーバレット。
内心秘めているかもしれない執着心が出る前に勝手に相手が自分の元に帰ってくる星の下にある。
嫉妬するよりも先に嫉妬する以前の問題。
大切にしてくれるのは嬉しいけど…ねぇ?
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