まぁ精神衛生上は幸せな方。
俺には生まれながらにして脚部不安がある。
それを隠し通せたらよかったのだが、どうやら隠しきれないものであったようで。
「あ、いらっしゃい」
トレセン学園に行けなかった俺は、そのまま親戚が経営している定食屋で日々腕を奮っていた。
元から料理は嫌いではなかったため、そこまで苦ではないが。
「今回はどこまで行ってきたんですか?」
俺目当ての常連?固定客?さんに話しかける。
彼はよくふらっとどこかへ出かけることがあるようで、ことあるごとにお土産をくれる。
そこまでしてもらわなくてもいいと言うのだけど、俺が渡したいだけだからと止まらない。
「今回は███だ」
彼はいい笑顔で答える。
███はたしか、前にテレビで紹介されてたような?
「いつもありがとうございます」
「お前の喜ぶ顔が見たいだけだよ」
それだけじゃないだろうとは思った。
しかしそれを言わせるのは野暮という物か。
「いただきます」といつものように手を合わせ、いつものようにご飯を食べる。
「ごちそうさまでした」
「はい、お粗末様でした」
彼がお会計を済ませて外に出るともう薄暗くなっていた。
申し訳程度の街灯の明るさだけが道を照らしていた。
「…お前、いつ帰るんだ」
「え?…まぁ仕込みしてからですかね」
「送るよ」
「!?」
毎日ひとりで帰ってて慣れてるんだけどなと言おうとしたが、彼はそれを聞く前に車を取りに行ってしまった。
それから。
「あ、あの」
「ん?」
「……ありがとうございます」
「おう」
彼はそれだけ言って車を走らせる。
……やっぱりこの人は優しいなと、そう思う。
「……なぁ、お前、今の生活嫌いか?」
しばらくの沈黙の後、彼がそう聞いてきた。
「……いえ?好きですよ」
…元から、才能なんてなかったのだ。
だから才能がある方の料理で生きていく。
「美味しい」って言ってもらえるの、嬉しいし。
「そうか」
それっきり、彼は何も言わない。
時折ちらっと彼の方を見るが、すぐに視線が合った。
やはり不思議な人だ。
……そういう所に惹かれたのだろうか? いやまさかそんなことはと頭をぶんぶん振る。
……今のなし。
「……どうした?」
思わず聞かれてしまった。
だってあまりにも突然すぎるし。
「あの…こっち俺の家じゃないんですけど」
「あんなボロ家に返せるわけねぇだろ」
「えぇ…」
普通の家ですよ、と言えば、「あの家事故物件ってネットで言われてるぞ」と返ってきた。
「えぇ……」
そんなの初耳である。
……いや、確かにいい物件の割に家賃が安いなとは思ったけど。
「だから俺んちで暮らせ」
「え?」
……今なんて言ったこの人?
「……あの」
いやでも、流石にそれは迷惑だろうと思うし。
「今度家具とか買いに行くぞ」
あ、これ話聞いてないやつだ。
ほかの世界線よりは精神は安定してると思います。
…たぶん?