さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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苦難の道を征け


帰ってくるよ

年が変わり、ダイヤモンドステークスへ。

シルバーバレットは今日も変わらず調子がいい。

今日勝てば一応は天皇賞・春を目指すことになっている。

 

いつもと変わらず悠々と走り終わったが、

 

「ッバレット!」

 

ゴールを通り抜け、次に足を降ろしただろう瞬間バキリと嫌な音がした。

慌てて降りると前に剥離骨折した右前足が酷いことになっていた。

観客の方から悲鳴が上がり、馬運車が用意される。

 

辛そうにしているシルバーバレットだが暴れることはなく、淡々と馬運車に乗せられていった。

 

*

 

シルバーバレットの右前足は複雑骨折。

普通なら安楽死となるところを僕らは頼み込んでシルバーバレットの治療をしてもらった。

 

折れた骨をボルトで繋ぐ、成功の確率があまりにも低い治療。

それでも、と僕らはその治療を選んだ。

シルバーバレットと同じような処置をしたというテンポイントのことが記憶にないわけではない。

成功率が低くともこの馬に夢を見た僕たちは夢の果てに未だ辿り着けていないこの馬を殺すことができない。

夢を、諦めることができない。

 

人々の喧騒の中で、件のシルバーバレットの目は酷く静かだった。

諦めている、というわけではない。

ただ、酷く静かな闘志がその瞳に宿っていた。

僕たちが諦めていないのと同じように彼も諦めていないのだ。

 

馬も、人も、誰もが諦めていなかった。

戻るのだ。何があっても戻るのだ。

あの舞台へ、G1へ!

 

*

 

何ともいえない異音がした。

その音に気づき、騎手くんがすぐに降りてくれて幸いだった。

僕の右前足は複雑骨折。

足に不運がかかり過ぎだろう、僕。

わぁわぁとこの耳に届くほどの声に耳を傾けながら僕は嘆息した。

 

すぐさま馬運車に乗せられ、帰ると手術が始まった。

どうしようもなく痛かったが、ここで暴れたら元も子もない。

耐えろ、耐えろ、耐えろ!僕は戻るのだ、あの場所へ!

まだ誰にも恩返しができていないじゃないか!

 

ぐるぐると、熱塊のような想いが体をカッカと熱する。

僕の体を見た彼らも僕の治療を望んでくれた。

僕の治療のために連れて来られた医者は最初渋っていたようだけれどみんなの説得、もしくは懇願により首を縦に動かしてくれた。

 

さぁ、戦うとしよう。

 

*

 

シルバーバレットが骨折したことが報道された。

ミスターシービーが引退し、シンボリルドルフも引退した今、唯一の期待馬。

三冠馬たちと戦うことが望まれていたほどの不運の快速馬。

運悪くとも同期たちに負けることはなく勝ち越し続けたその足。

 

去年のステイヤーズステークスで調子が良ければ天皇賞・春に来ると聞いて、やっと来てくれるのかと歓喜した。

けれど、またもや不運に襲われている。

 

あぁ、どうか、どうか。

生きてくれ、俺たちに見せてくれ。

キミの力はまぐれなんかじゃないんだ。

いつまでも待っているから、だから、どうかこの場所に、

 




僕:また骨折した馬。
普通なら予後不良となるほどの骨折だったが全員納得づくで手術となった。
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