さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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拾った話。



にこり

傷だらけのウマがいた。

確かに倒れているのに、誰にも見向きされず。

逆に関わったら面倒になると踵を返されて、遂には諦めた。が、

 

「だいじょうぶ?」

 

高い声がウマの耳に届いた。

ふらりと瞼をあげるとそこには、見るからに身なりのいい子ウマがいた。

 

「…わぁ、すごいおなかの音」

 

希望が一縷見えた瞬間、主張し始める自分の浅はかさに顔を赤く染めるよりも早く、「この人運んであげて」と、ウマの頬に小さな手が触れた。

 

「お医者さんにみてもらわなきゃ」

 

身なりのいい子ウマは、自分よりもずっと大きなウマを軽々とひいて、路地の奥へ消えた。

 

 

「おいしいですか?」

 

そうして倒れていたウマは、子ウマが住む家-立派な日本家屋に連れ帰られた。

そこで十分な治療と空腹を満たされ、ウマは元気になった。

 

「嗚呼、美味い」

 

子ウマがえっちらおっちらしながら持ってくる料理はどれもこれも絶品で、食べる度に身体中に力がみなぎるようだった。

 

「よかったぁ」

 

子ウマが顔を綻ばせると、跳ねた髪がぴょこぴょこと揺れて可愛いらしい。

 

「あの……本当にありがとうございました!」

 

頭を下げれば、子ウマは慌てて手を振った。

 

「いいんですよぅ、困った時はお互いさまですから」

 

そう言って、にこやかに笑うと盆を下げた。

 

 

「…まさか坊主だと思ってたのがこんな別嬪な嬢ちゃんだったとはなァ」

「そんな嬢ちゃんを捕まえたのは貴方でしょう?」

「でも、先に惚れてたのはお前さんの方だろ」

「……」

 

そうして約十数年。

青年から初老近くになったウマの傍には美しい女-あの日、ウマを拾った子ウマその人がいた。

あの初対面から子ウマは倒れていたウマに惚れていたと言い。

幼いながらも料理を作っては胃袋を掴んだり、自分が男児だと思われていることを逆手にとって中々際どいことをしてきたりもした。

 

(あの時は、そういうケが俺にあんのかと焦ったモンだが…)

「まぁハンザイテキと言われればそうですよね」

「おい」

「でも、惚れたのは私の方ですから、貴方は何も悪くないんですよ」

「…」

 

あれだけ好きだ好きだと言ってきたくせに。

想いを遂げた今となってもふとした時に翳った顔をする女、いや愛しい相手に、ウマは溜息を吐く。

 

「俺のせいにすりゃあいいだろ」

「違います!……っ!?」

「悪いオトナに騙されたんだってさ」

「…もう」

 

初めは少しばかり反対があったふたりの関係だが、子ウマが「この人じゃなきゃイヤ!」と譲らなかったのと男が子ウマの家が容認せざるを得ないぐらい腕っ節が強くなったこともあり…。

 

「愛してるよ」

「…はい」





あの一族ではよくあることなんだ。
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