ひかる。
彼は誰も見なかった。
彼を見ていた私たちとは違って。
どこまでもどこまでも前を向いて、振り返らなかった。
先に進めば未来がある、幸福があるというような顔をして、駆けていった。
私たちがどれほど引き止めようとしても、この手からあなたはすり抜けていって。
情に訴えかけて止めようにも、その声すらもあなたには届かないから。
「頑張ってくるね!」
周りの声に私たちの声は掻き消される。
あなたに期待を寄せる、有象無象の声で掻き消される。
いかないで。
どうかどうか、いかないで。
そばにいて。
いきて。
────そう、叫んでも。
「楽しみにしててね」
*
どれだけ求めてもあなたは私を見なかった。
あなたの目に映るのはいつだって一番星のごときいつかの光で、その光に焼かれたあなたは、その残光に惹かれるようにただ歩くのみ。
綺麗なものに惹かれるのが生き物のサガというのなら、本当にその目を潰してしまいたいぐらいにはあなたは私を見なかった。
けれど本当にその目を潰してしまっても、あの残光はあなたの中に残り続けるだろうことを知っていたから、そんなこと、できなかった。
やりたくても、できなかった。
「……、」
いつだってあの光に
あんな光よりずっと、私の方があなたを。
あんな、どれだけ求めても応えてくれない光より、ずっと。
私の方が、私の方が、私の方が…!
でも、そんなの。
*
蜘蛛の腕は伸ばされない。
すべてを喰らい肥大するあなたは、それでも全部を食べはしなかった。
生かさず殺さずで、少し欠けさせる程度で。
喰われた痛みを、ナニカに勘違いした痴れ者共がまた寄ってくるのを繰り返すように。
あなたは自分の前にやってくる獲物をチビチビと食べる。
好き嫌いはなく、やってくるなら平等に。
食べて、食べて、食べて。
肥大して、肥大して、肥大して。
あなたは誰も見ない。
あなたの目に映るのは食材だけ。
自分の腹を、空っぽを満たす、ナニカだけ。
けれども、
「……」
どうして。
私を、見ないくせに。
*
キラキラと光り輝く星だった。
あなたがよく見つめていた星は、そんな星だった。
誰もが愛する、一等星。
誰もが憎む、一等星。
矛盾を孕んだ、一等星。
その光が何もかもを魅了する。
故にあなたをもあの光が絡めとって、
それが、僕は怖かった。
行かないで、と追いすがって。
どこか仕方ないなあという顔をするあなたに安心して。
「───────」
けれど。
その光に目を焼かれて。