───籠の中。
「…僕と友だちなんて、やめた方がいい」
そう言って、いつもキミは諦めた笑顔をしていた。
僕とキミはほとんど同じなのに、世間からの扱いは雲泥の差があった。
僕はそれなりに代を重ねているとある良家の子女というところを除けば普通のウマ娘であるのに。
キミは"サラ系"というだけで、
「バレット!」
「あぁ…、マス太か」
「…誰にやられたの」
「さぁ?」
悪口が書き連ねられている自分の机をキミは面倒くさそうに持ち上げた。
「これで何台目だろう」と笑いながら。
僕も彼女に着いていった。
備品を管理している用務員が彼女を見て一瞬顔を顰めたけれど、僕がいるのに気がついてにこやかに挨拶した。
「戻ろうか、マス太」
「…うん」
キミの指にはまだ血が滲んだ絆創膏が貼られてある。
ファンレターを装った手紙に剃刀が仕込まれていたのだと。
彼女の挫いた脚は未だびっこを引いている。
不注意で落ちたと言っていたけど。
「バレット」
「なぁに」
僕を見て、キミが微笑む。
…あぁ、その笑顔のなんと儚いことか。
*
「僕の家においで」
「え…?」
不可抗力でひとりにしてしまった彼女はひどくやつれていた。
アスリートとして引退までやれていたのが不思議なくらいに体は細く、目には深い隈があった。
多少無理やりではあったが彼女を僕の家へと引き入れた。
養子縁組…は今のところ無理だったから食客として。
まぁまぁ自分の家が権威の高い家でよかったと思ったのはこれがはじめてだ。
断ろうとする彼女を丸め込み、一身に面倒を見た。
「こんなに、幸せでいいのかな…?」
「いいんだよ」
彼女には僕の私室にほど近い場所の部屋を与えている。
お抱えの医者に診てもらった際、絶句されてしまったほどにキミは精神的にも肉体的にもやつれ果てているから心配なのだと理由をつけて。
「またキミの先生が会いに来てくださるって」
「本当?」
「僕が嘘をついたことなんてないだろう?」
家族以外の大人の中ではいちばん信頼している相手が会いに来てくれるとあって嬉しそうにしている彼女に頬が緩む。
「マス太」
「どうかした?」
「…時間がある時でいいから、庭を散歩してみたくて」
「うん、そりゃあいい」
庭を散歩したいと言い出した彼女にこれはいい傾向かもしれないと思った。
けれど、
「でも、まだキミの体調は万全じゃないからね。
少し歩いただけでふらつくんだから、家の中を少し歩いたり…ってのはどうかな?
キミもまだ見てない場所があっただろう?」
「…うん」
外には出してやれない。
だって、世界はキミにとって優しい世界ではないから。
キミを傷つけてしまう世界なら、僕が優しい世界を作ってやった方がいい。
『なんで"サラ系"なんかを!』
『"サラ系"にこの家の敷居を跨がせるなんて…!』
『あの汚らわしい"サラ系"が…、』
…この歳で当主になるのは大変だったよ。
けど、キミを幸せにするためには大切なことだったから頑張ったんだ。
「ねぇ、バレット」
「なぁに?」
「今、幸せかい?」
「…うん、とっても」
未だに儚いながらも、そう言って笑ってくれたシルバーバレットにシルバマスタピースは小さく、それでいて満足気に微笑むのだった。
ちょっと精神的にも肉体的にもやられてるからさしもの銀弾もね…。