娘か息子かはどうぞお好きに。
あの日、僕は脚を失った。
みんなが、せめて【僕】だけでもと望んだから。
「…」
ただそこだけが凹んだ掛け布団を見やる。
最近では、もう、幻肢痛もなくなってしまった。
「……、…、ぅ、う、ぅ゛……」
"あった"はずのソコを力いっぱい殴りつける。
何度も、何度も、何度も、何度も…。
でも、
「ぅああああああ……!」
なにもかわらない。
痛むのは、殴りつけた拳だけ。
掠れた、か細い声で泣き叫ぶ。
ジクジクと喉が痛む。
ぼんやりと感じる鉄の味に、また喉が裂けたらしいと他人事のように思考した。
「…シルバー」
吸って、
そう繰り返していると手を優しく包まれた。
噛みすぎてガタガタになった爪が視界に映る。
顔をあげるとそこには、ミスターがいた。
「ご飯、食べよう」
「…いらない」
断ったのに、眉を下げたミスターは僕の口にペースト状になった食べ物が乗った匙を差し出すのだ。
懸命に口を閉じようにも、最終的には点滴を繋がれてまで生かされることを知った今となっては、もう従うしかなくて。
「よく、できました」
こわれものを扱うかのように触れられる手に、吐けないから、仕方ないだけだと自嘲した。
……生きる希望を見失った僕はあの日から、シンボリ家が所有する小さな邸宅のひとつにお世話になっている。
僕をひとりにしたら、最悪なことになりかねない、と。
何もかもを取り上げられ、入れられた部屋の窓には荘厳な屋敷には似つかわしくない厳重な鉄格子がある。
…そんなことをしなくても、もう、僕は逃げられやしないのに。
「…新しい義足ができたそうですよ」
シンボリ家当主の職務が忙しい中やってきたルドルフが、アタッシュケースから物々しい"あし"を取り出す。
それを僕の【空白】に恭しく備え付けては、ミスターとともに優しく僕の体を支えるのだ。
「どうぞ」
連れ出された小さなコースで、ふたりに望まれたとおりに一歩を踏み出す。
一歩ずつ、踏み出すごとに薄らと、カチャカチャ鳴る音が嫌に耳についた。
その音を振り払いたくて、強く踏み込む。
その、瞬間、
視界が大きく傾く。堕ちる。
それが、あの日と、あの時と重なって、断末魔のような呼吸音が自分の喉から鳴った。
「「シルバー!」」
嫌だ、嫌だ、嫌だ!!
僕のあし、あし、あし、あし、…は?
かえして、かえして、かえしてよぉ!!
"がらんどう"を、まさぐる。
けれど"がらんどう"だから、なにも掴めない。
─────なにもない。
────なにもない。
───なにもない。
……なにも、そこには。
「ぼくの、あし…」
はくり、と呼吸する。
だが、それが音になることは…。
僕(86宝塚√IFのすがた):
実は皇帝との初対戦だった85秋天を大逃げでキメてたりする。
だから85有馬でベタ付けマークされたんだね!
…フツーに1馬身差つけたまま逃げ切ったけど。
…みんなから望まれたので生き残ったすがた。でも脚は亡くした。
脚と心/中しようとしてたのに生き残ったので今日も元気()に生き恥している。
なお
んで、たびたび皇帝から義足を贈られているが、脚力と義足の強度が噛み合わずいつもぶっ壊している。
残酷な、"希望"だけを、見せられている。
…ぼくのあし、かえしてよぉ。
…これ、牝馬軸だったら、どうなるんだろうね?
CB&皇帝:
献身的に
僕に、何がなんでも生きていて欲しいと願っている人たち。
それはそれとして、…この可哀想な僕の姿を見て、悦んでたり、してませんよねぇ?
義足:
最高品質のもの。
シンボリ、メジロなどなど錚々たる名家が制作に関わっている。
でも呆気なく僕に壊される。
僕のおかげでこの世界の義足技術はほかの√世界と比べると何十年も進歩しているし、のちに僕の尽力()のおかげで救われた子たちもいる。
けど僕本人は……。
みんなが『生かして欲しい』って言ったから生かしたよ!
良かったね!!