さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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逃げられなかったね。



もう

子どもができた。

この世界ではウマ娘同士でも子どもができる。

俗にいう『三女神さまからの授かりもの』っていうやつなのだが。

 

「…どうしよう」

 

相手は友人だ。

しかも良い家の生まれの。

学生時代からのよしみで泊まりで一緒の布団に入っても別にどうともない関係であったが授けられては話が違う。

友人はまだ許嫁がいない。

「見つけないの?」と聞いたことは何度かあったがそのたびにはぐらかされ。

そろそろいい歳だからと家から斡旋されたと愚痴を聞いた昨日であったから。

 

(…僕なんかじゃ、土台無理か)

 

目線を向けた先にいる友人はまだすやすやと眠っている。

酒が入った昨日の今日だ、まだ当分は起きまい。

別にごちゃごちゃと考える必要は無い。

ただ一言、友人に言えばいいのだ。

キミとの子どもができたらしいと、それだけで済む話だ。

だがその一言がどうしても口に出せないでいる自分がいる。

 

(……ああ)

 

もういっそのこと、このままずっと寝たままならいいのになとさえ思うほどには自分は臆病者だ。

そんな自分の心とは裏腹に外では日が高くなりつつあるのか、カーテンの隙間から朝日が差し込み始めた頃であったろうか?

ふと友人が身動ぎし、「…おはよ」と相変わらずの寝起きの様相で話しかけてきた。

 

「…おはよう」

「うん。…ねぇ、」

「え、」

 

不意に抱き締められる。

それに困惑すれば「夢を見たんだ」と半ば『分かってるよな?』と言外の圧をかけて。

平静を保とうとしたけど見るからに挙動不審になってしまい、「ご、ご飯いるでしょ?」なんて話を逸らしてしまった。

そのあとは適当なものを作って朝食を済ましたのだが、終始無言の時間が続き食事の味なんてまったく覚えていないし、いつも通りに「美味しい」と告げてくれた友人に申し訳ないとすら思った。

食器を片付けて昨日飲み散らかしてしまった空き瓶やらゴミやらを始末しているうちにこのまま誤魔化せないだろうかなんて。

心臓がドクリドクリと音を立てるのが耳元で聞こえるように感じるほどに高鳴る鼓動を抑えるべく深呼吸を繰り返して一言、たった一言言うだけだと言い聞かせるも緊張で目が回りそうになり思わず頭を押さえてしまう。

 

「……、」

「大丈夫?」

「だ、大丈夫!」

 

一瞬、支えられそうになったのに慌てて体勢を立て直す。

どうにもいい言いくるめやら誤魔化しの言葉が浮かばない。

そのまま考え込んでいたら手首を掴まれて。

驚いて友人の顔をみればいつもより真剣な顔をしていて思わず息を飲む。

 

(だめだ)

 

そんな目で見られたら絆されてしまいそうになるからと思わず目を逸らすけどそれでも友人は許してくれなかったらしい、掴んだままの手首を少し強く引き抱き寄せられたかと思えばそのまま耳元で囁かれた言葉に頭が真っ白になってしまったのだった…。





────逃がさない。
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