さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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99年 宝塚記念


それは誰もが望んだ、『夢』だった。


その日、彼等に乗り移ったのは"神"か、
それとも…。


"あの日"の(見果てぬ)『夢』を叶えるために、
"弾丸のごとく"現れた「最速の芦毛」


その馬の名は……。



"あの日"の残影

……本当は、この場所に来る予定はなかった。未来永劫。

 

『……そして、白峰透という男も、わたしの夢であります』

 

本当なら、遥くんがここにいるはずだった。

でも彼は不運なことにこの前のレースで落馬して顔面骨折。

全治未定のために、僕にお鉢が回ってきた。

遥くんがいてくれたら、…他人事でいれたのに。

 

『今度こそ、今度こそ、わたしは…凱旋門の夢が見たいのです』

 

ずきり、と体が、精神が軋む。

この阪神という場所を、僕は、"あの日"からずっと避けていた。

思い出したくない記憶、悪夢。

歓声と悲鳴。

 

「……」

 

彼をズッ、と最後方に沈みこませる。

前へと行きたがる彼を抑え込んで、走らせる。

今日の僕は、まったくもって勝つつもりがなかった。

最下位に甘んじて、終わったあとにどれほど周りから失望されようとも構わない。そんな覚悟でその道を選んだ、…はずだった。

 

「は、」

 

すぅ、と横を通り過ぎる風。

それは、

 

「まって」

 

無意識に彼にGOサインを出す。

そうすれば待ってました!と言うように、待ちくたびれたぜ!と言うように、ガンガン走っていく。

 

まって、ねぇ、まってよ。

おいていかないで。

ずっと、ずっとずっとずっとずっと、ぼくは、キミに…、

 

「待ってってば!」

 

(ごう)、と凪いでいたはずの魂に火が灯る。

あぁ、駄目だ。

こんな姿勢(フォーム)じゃキミに追いつけない。

こんな生ぬるい走りじゃ、キミに追いつけない。

 

「行くぞ!」

 

僕の叫びに応える声。

それは、懐かしい"人馬一体"の感覚。

最後方から一頭、また一頭と。

 

『大外から、…っ大外から!"弾丸のごとき"勢いで、何か一頭やって来る!!』

『シルバーだ!シルバーチャンプだシルバーチャンプだ!』

『差し切れ!届け!シルバーチャンプ!差し切れ!差し切ってくれ!!』

 

そして、……一刀両断。

 

 

 

『勝ち時計2分12秒0!13年と2分12秒0です!鞍上・白峰透とシルバーチャンプ!!』

『"彼"が散ったあの日から、約10年の時を越えて、今度こそ、今度こそ!銀色の一族が凱旋門賞を目指します!!』

 

 

極度の集中状態だった僕の耳には、まだなにも音が入らない。

けれど、それでよかったのかもしれない。

 

「……、」

 

声にならない声でキミの名を呼ぶ。

…キミは、ずっとここにいたの?

僕を待っていたの?

そう問いたくても、溢れ出る涙が邪魔をする。

 

"……て"

 

「え、」

 

それは、今にも聴き逃してしまいそうな小さな声。

ひどく弱々しくて、掠れて、どうしようもない…。

 

"…ぼくを、……つれてって"

 

その姿が掻き消える、歪んでいく。

どうか、待ってくれと伸ばした手は、届かないまま。

 

「……キミは、僕を許してくれるの」

 

茫然とつぶやいた言葉に答えはない。

…けれど、

 

「あぁ…、」

 

約束。

 

「僕が、キミを連れて行くよ──」

 

あの、門の先へ……。




白峰おじさん:

たぶんこの回に限り、周りの騎手&ウッマから遠巻きにされてたヒト属おじさん。

"あの日"からずっと騎乗依頼で阪神競馬場NGになってた騎手。ちな逃げ馬もNG。
だが遥くんが落馬事故で顔面骨折カマして全治未定となったため、代打で99宝塚記念に騎乗。なお白峰おじさん自体は引退まで怪我なしだった模様。"加護"、ついちゃってるね。
この99宝塚記念で良い結果出したらシルバーチャンプは凱旋門賞へ、と報道されてた+馬主(息子)の方からもそう言われてたが白峰おじさん自身はまったくもってシルバーチャンプを勝たせる気がなかった。
だって嫌じゃん?『"運命"で"最愛"で"最強"の相棒』の甥っ子が凱旋門賞行って"あの日"みたいに最悪なことになったら。


けれど、第4コーナー付近で"彼"を視てしまった。
ずっと謝りたかった"彼"に。
"あの日"、どうにか生きて欲しいという自分のエゴで走りを止めさせてしまった"彼"に。
どうしようもない苦しみの中(じごく)を、自分たちのせいで歩かせてしまった"彼"に。


追いかけて、追いかけて、追いかけて。
"彼"以来したことがなかった"人馬一体"の境地を使ってまで追いすがった。
そして、

"…ぼくを、……つれてって"

そう、願われたから。
そう、願われてしまったなら、叶えなくてはいけないから。
でも、

「…やっぱり、僕は、」

キミじゃなきゃ、駄目なんだよ……シルバーバレット


甥っ子:

主な勝ち鞍
宝塚記念(1999)
凱旋門賞(1999)

"あの日"散った"彼"の甥っ子。99宝塚記念では本馬の実績から見るとそこまでだったが観客おのおのが応援として買っていた馬券が後押しして1番人気に。また結果として、上り史上最速を叩き出した。
んで、この99宝塚記念で見せた超最後方からの大外一気のために、ウマ時の固有が『第4コーナー付近で最後方であればあるほど道を開いてすごく抜け出しやすくなり、またすごく加速する』という父:オグリキャップの上位互換みたいなヤベェことになってしまっている。

今回の結果から凱旋門賞に遠征しに行くことになるが、99宝塚記念を勝ったあとから常に99宝塚記念で見た半透明の知らない(ウッマ)(テンションバリ高)がそばにいるようになって、ちょっと辟易とすることになる模様。
なおそのウッマは彼が凱旋門賞を獲ったらグッバイしていったらしい。


誰が呼んだか『三冠馬の"宿敵"』:

──沈黙の(86年)阪神競馬場から、歓声の(99年)阪神競馬場へ。

……ずっと待ってたンだよなぁ。

99宝塚の白峰おじさんに対しては"おう、なに消極的(クソみたい)な騎乗しとんじゃワレ!"という気持ちだった。
ちなまったくもってヒト属のことを恨んでないし(逆に『こんな自分を愛してくれてありがとう』だった)、あの最期も『まぁ運命だったんだろうな…』と受け入れてる。
…それはそれとして、

僕のこと、凱旋門に連れてって♡
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