覚えてる?
「変わらないんだね」
「……」
チマチマと今度の行事の用意をしていると声をかけられるのに振り向けばひどく見覚えのある顔があった。
「手伝うよ」
「え、あ、うん」
本来ならここにいないはずの顔に思わず素っ頓狂な声を出してしまったのは僕で、彼女はにこりと微笑んで手伝うよと言ってくれた。
目の前彼女、名前は確か……そう、たしか、 ──……グローリーゴア?
グローリーゴアは僕の記憶の中の彼女とあまり変わっていなくて、でもその笑顔にどこか影があるような気がして。
僕は彼女の名前を呼ぼうとしてやめた。
だって、彼女は僕のことを覚えていないかもしれないから。
だから僕はただありがとうと言って作業を続けた。
作業をしながらぽつりぽつりと会話を交わしていくうちにわかったことは、彼女はこっちに留学に来ているということ。
僕に会いに来てくれているのかなと少し期待して聞いてみたら、そうでもないと言われて胸がつきりと痛んだ。
別に僕は彼女に特別な感情を抱いていた訳ではなかったのに何故か酷いと感じてしまって、その痛みを誤魔化すために自分の感情に蓋をした。
それからもたまに手伝ってくれる彼女は友だちの多い人気者でとても社交的だった。
一人でいる僕とは真逆だと言えるだろう。
そんな彼女がどうして僕を訪ねてきてくれるのかわからなくて聞いてみれば、すこしだけ照れたように言葉を漏らす。
「まだ、気づかないの?」
瞬間、ゆるりと彼女の目に───見慣れた光が宿る。
強くて、カッコくて、でもどこか壊れてしまいそうなくらい危うい光。
その瞳の色はまるで、あの日のようで。
違う、そんなはずがない。
彼女は僕を覚えていない。
あの日のあの子に似ているなんてありえないとわかっているのに、どうして記憶がもちらつく。
「僕が、特に理由もないのにやさしくするわけないでしょ」
だから僕は知らないふりをする。
彼女は僕と友だちになりたいだけ。
彼女がそう望むのであれば僕に断る理由はないから、それを受け入れる。
この友人関係が彼女にとっての〝初恋〟に繋がりやすいことを知っているから。
そんな打算的な関係だ、と誰かが嗤ったような気がしたけど無視をした。
・
・
・
キミは見ないふりをしている。
はじめからキミに関わりたくて、必死に説得してやっと来れた場所。
相変わらずキミはたったひとりで人知れず人のために生きていて。
「手伝うよ」
そう告げるとキミは目を見開いて、そこからストンと普通に戻って。
「ありがとう」
…まぁ、逃がさないけど。
手放そうとはするけれど。