なんだか。
昔から人を好きになるというのが分からなかった。
物心ついた時から血縁以外には避けられていたし、夫婦となった相手も幼なじみである少女で。
ろくに他人と関わりを持たないままの人生であったから、誰かを好きになるという感情がどういうものなのかが分からない。
だから、きっと。
これは、そんな欠落した心から生まれた一時の夢幻なのだと思う。
この思い出も、この目に映る現在も、全ては泡沫の幻だ。
そう理解すれば納得できる。
「起きたか?」
「…ザンさん」
妙にだるい身体で起き上がればやさしく触れられた。
「朝ごはんできてるぞ」と珍しく彼が食事の支度をしてくれており。
テーブルの上にはサンドウィッチとコーンスープが並んでいた。
いつもぼくが作る料理とは大違いだ、と彼は笑う。
それはそうだろう。
自分は妻がいなくなったあと男やもめで娘を育て上げた経験があるのだし。
だから、この程度お手の物だ。
それにぼくはキミの手料理なら炭ですらも美味しいと言って食べる自信がある!と言えば「さすがに…」なんて。
「とりあえず食えよ」
「…うん」
あんまり朝は…、いやそもそもいつも食べないタチなんだけどな。
でも食べないとうるさいだろうし、せっかく作ってくれたんだし。
きちんと食べないとまた何か言われちゃうかなあ。
……でも、まあ。
どうせ、これは夢だ。
そう、目が覚めたらこんな奇妙な世界はなかったことになるんだし。
……なんてことを思っていた時期がぼくにもありました!
あれから数日が経ち、相変わらずぼくはザンさんと共に暮らしている。
そして、この生活に違和感がなくなってきた自分がいるのを最近ひしひしと感じているのだ。
いやね、だってさ!
もうザンさんってぼくがいなくちゃダメなんじゃ?ってレベルだぞ?
彼ってば生活力がなさすぎだ!!!
もう、ほっとけないというか……。
ご飯は栄養バランスが危ういし、服もほったらかし。
ぼくがいない時はどうしてるんだろう?ってくらいひどい有り様だ。
でもまあ……、そんなザンさんがかわいくて仕方ないから困るんだけれどね!
だってさ、あんなに格好良くて強い人がぼくの前ではこんなにポンコツなんだぞ!?
そんなの可愛くないわけないだろ!
「はいはい、いま行くヨ〜」
*
アイツはやっぱり危なっかしい。
俺の言いくるめにも特段疑うこともせず、せかせかと世話を焼いている。
そんなんだから…。
「どうしたノ?ザンさん」
「ん〜」
俺以外だったら逃げるくせに。
逃げてくれたら、
(まだよかったものを)
真っ直ぐな信頼と…?