さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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子どものいたいけな純情と。



大人のごまかし

僕の全兄たちはすごいウマであった。

G1を何個も勝っていたし、見た目も綺麗だし。

かくいう僕は一度も勝てなかった。

はじめはあの兄の弟だと注目されていたけれど、結局は忘れ去られて。

"仕事"の話なんてオーナーさんが個人的に持ってきてくれるもの以外はあるはずもないまま、ひっそりと余生を送っていた。

そんなある日、

 

『……』

「…キミは」

 

キラキラとした目で僕を見ていた幼子、その見目にいつかを思い出してツキリと頭が痛くなる。

額を押さえている間に駆け寄って来た子どもにきゅうと手を握られたのをぼんやりと見やる。

 

『███』

「…なぁに」

 

結局。

件の子どもはやはり兄の産駒であった。

母親は僕も知っているオーナーも厩舎も一緒だった古馴染みと。

だが兄の素養がすごくすごい出ている子どもは……何故か僕に懐いていた。

構ってくれそうなウマなら他にもいるというのに、そちらを勧めると毎度毎度僕のところへトテトテ歩いてきてはぴったりとくっついてくる。

幼さゆえの無垢さで僕のお下がりを着たり、真似っ子したりしているけれど……可愛いとは正直言い難かった。

子どもらしいやわやわとした肌や丸く光る瞳は確かに幼い頃の兄たちと似通った容姿だと思えたから、将来はモテにモテるだろう。

でも、

 

『███、おっきくなったら結婚してくれる?』

「さぁね」

 

何故、この子はこんなことを言ってくるんだろう。

幼い子ども特有の、と考えようにもひどく真剣なのだ。

父母から受け継がれた艶やかな黒髪は今日も丁寧に整えられている。

淡い色の服を身に纏ったその子は、いま現在ここで一番可愛いと専らの評判だ。

そんな子が、僕なんかに好意を寄せるなんて有り得ないだろう。

こんな子に懐かれていることを兄や父やオーナーさんに知られると絶対に何か言われるに違いないので、決して人に言わないで欲しいのだけれど……早く飽きてくれないだろうか。

 

「はぁ」

 

僕は小さく溜め息を吐き出した。

 

 

「……」

 

一目であのウマのことが好きになった。

何がどうとは言えないのだけど、あのウマを視界にいれるだけで心臓がバクバクとなってちょっと苦しいくらいになる。

 

「███」

「なぁに」

 

あのウマはやさしい。

自分から向けられる好意をあまり受け入れられないようだが、それでもそれを隠して接してくれる。

あぁ……そんなにやさしいから。

 

「███、どうやったらけっこんしてくれる?」

「…すごく強くなったらいいよ」

「どれくらい?」

「キミの、お父さんやおじさんを超えるくらい…かな?」





そんなこと言われたら…ねぇ?
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