お前は、俺たちの『希望』。
彼らはそこまで強い人たちではなかった。
「よォ、バレット。今日もちいせぇなぁおめぇは!」
「いっぱいたべなよ〜。食べた分だけ強くなれるんだから」
「っぱ凄いぜ、バレット!お前なら八大競走だって夢じゃねぇ!」
「バレットちゃん、おいで。髪切ってあげるわ」
でも誰も僕を"サラ系"だからと差別しなかった。
"シルバーバレット"という個人だと見てくれた。
僕が悪口を言われれば庇ってくれたし(喧嘩しそうになってたのは流石に止めたけど)、僕のことを愛してくれた。
「先輩たちは…、」
『ん?』
「僕が勝ったら、嬉しいですか…?」
『……っあはは!』
「っ、」
『そりゃ嬉しいに決まってる!』
そう言って誰もが不安げにする僕の頭を撫で回した。
「"サラ系"の癖に勝つなんて生意気だ」と言われることが常だったあのころ、彼らだけが僕の勝利を祝福してくれた。
「…、クソ」
ある冬の日の深夜、僕らが暮らしていたアパートに火事が起こった。
火の回りが早く、焼け落ちてきたものが当たって左顔面を火傷した僕は痛みからおぼつかない足取りで必死に逃げていた。
煙を吸いすぎ、ぼうっとしていた時「バレット、あぶねぇ!」とリーダーの声がして、
「…りー、だー?」
「……ぁ、よ、かった。…へーき、か、ばれっと」
「だ、ぃじょ、…げほっごほっ!」
「ま、てろ。すぐ、そとに」
次に意識を戻すと僕はリーダーに背負われていた。
鼻も効かない、目も見えない状況でリーダーが僕の命綱になっていた。
そして、
「バレット!」
「…せん、せ?」
僕は生き残った。
「よかった、バレット…」
「ねぇ、せんせ」
「どうした!?」
「りーだー、は?ぼくを、せおってたの、たすけて、くれたの…」
リーダーの、仲間たちの安否を聞く僕に先生は言い淀んで。
それだけで僕はすべてを察した。
…仲間たちのほぼすべてが死亡。
火に巻かれた者もいれば、一酸化炭素中毒で死んだ者も。
二、三人は生き残った仲間もいるらしいがその誰もが火事の後遺症で引退せざるを得なくなって。
「あ、あ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
死亡者の中で一番酷かったのはリーダーだという。
全身に大火傷を負い、僕を背負って外に出てきたことすら奇跡であったと。
気力だけでそれまで生きていたようなものだと。
気絶していた僕を引き渡すとすぐに息を引き取ったのだと。
そんなリーダーは掠れた声でぽつりぽつりと死に際の言葉を喋ったのだという。
『…あいつ、は、ばれっと、は、おれたちの、きぼうだ』
『ろくでもなかった、おれたちの、ゆいつの、ひかり、だ』
『ばれっと、がんばれ、がんばれ…おれたち、がついて……』
先生の腕の中でそう言ったって。
『ねぇ、リーダー。リーダーが獲りたいレースってなに?』
『えぇ?俺が?…そうだなぁ、やっぱ天皇賞・春かなぁ』
『天皇賞・春?』
『そう!天皇賞・秋でもなく天皇賞・春!俺の憧れなんだ。
…ま、どうせ出れねぇけどさ。俺、そんなに強くないし』
「…てんのうしょう、はる」
バタバタと慌ただしい音がする。
そんなこと頭に入らない。
ベッドに横たわる僕の頭にはリーダーとした、そんな話がぐるぐると、ただ回っていた。
『愛』ほど歪んだ"呪い"は無いと言うのなら。
『祝福』という名の"呪い"は何になるだろうか。
僕:
どうなったって、犠牲に見合う『栄光』を獲るまでは歩き続けることのできる『
立ち止まることは許されない。
進むことしか許されない。
走り続けろ、────いつか、赦される日まで。
でも、赦すのは誰?
赦さないのは、誰?
僕のことを愛している。今までも、これからも。
"シルバーバレット"。
可愛い俺たちの末っ子。
停滞していた俺たちに『希望』を見せてくれた子。
どうか、どうか、歩き続けて。
立ち止まるなら俺たちが背を押そう。
進めないというのなら俺たちが手を引こう。
征くがいい、俺たちの代わりに───『栄光』の先へと。
そして最後は、…俺たちに『栄光』の話を。
待っているから、走って来てね。
誰よりも、何よりも疾い、その脚で。
待ってるから、ね?
──たぶん、たぶんさ。
どこかの誰かに、もしくは世界中の人々に、『それは"呪い"だ』って言われてもさ。
僕はその"呪い"を…、
「愛するんだ、と思う。…いや、」
愛し
…きっと最期の、最後まで。
原初の呪い、もしくは。
─────はじまりの、『愛』の話。