さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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向けられたなら。



無自覚な愛でも

抱き締められてるのにぼうっとしていると【飛行機雲】がどこか不満げに声をかけてきた。

 

「どうした」

「…先輩、警戒心無さすぎます」

 

そうだろうか。

お前が相手なのだからいいだろう、別に。

他の、あんまり仲の良くない相手にするならさすがの俺もそんなことしねぇよ。

でも、お前は違うだろ?

そう言おうとして、しかしその前に俺は別のことを口にしていた。

それは、俺の本音だったかもしれない。

あるいは、ずっと前から言いたかった言葉だったのかも。

そのどちらなのかは、わからないが。

俺は言った。

それはきっと、俺が初めて口にした本心だっただろう。

そしてそれが、俺の人生に決定的な変化をもたらしたのだった。

 

「俺、お前のこと好きだよ」

 

……そうして気がついたら同棲する仲になっていた。

ある種、幼い頃から家族公認の仲であるし、お互いの両親も認めてくれている。

元々いつかはこういうことになるかもなとは思っていた。

でもさすがにこれだけ早いのは予想していなかったな。

いや、相手がお前なのが嫌っていうことじゃなくてな。

何がどうなったらこうなるんだっていう話だよこれは。

経緯が全くわからんのだよなこれ……。

……あ、いやそうか。

そうだわこれ、例の不機嫌事件のせいか?

でもあんなのよくあることだし、それで拗ねて俺の布団に潜り込んで"説得"とかありえるか?

うーん……。

まあ、いっか!

細かいことはどうでもいいよな!

俺は今幸せだし、【飛行機雲】も幸せそうだしな!

ならもう何も問題は無いだろ。

終わりよければ全てよしってな!

あ、でも一応確認はしといた方がいいか?

いやでも、なんかもうどうでも良すぎるしなこれ……。

もういいか。

よし、終わりでいいや。

というわけで、この話はこれで終わりである。

またいつか気が向いたら色々と聞いてみよう。

 

 

「俺、お前のこと好きだよ」

 

そう、たしかに言葉にされた日のことを覚えている。

いつもそんなこと言わない先輩がぽつりと漏らした、本音のようなそれ。

本来なら「はいはい」と聞き流さなければいけないそれを、僕は。

 

「ベッドまで入ってきてどうした?」

 

不思議そうにする先輩を"説得"した。

先輩は僕に甘いから結局は僕の言うように全てが決まったし、僕は晴れて先輩と同棲する仲になった。

先輩からの「好き」の言葉。

それがいつまでも僕の耳から離れてくれない。

その言葉を、思い出せば思い出すほどに嬉しすぎてわけがわからなくなるのだ。

だから僕は、ついそれを思い出してしまうと先輩をベッドへと引きずり込むようになった。

この気持ちだって大概だけれど。

先輩が僕に甘いのも大概なのだ。

僕がしたいと言えば先輩は大抵のことはしてくれるし、それはつまり僕に対して少なからず好意を持ってくれているということなのだから嬉しいに決まっている。

でも、だからこそ不安になる。

他の人がそう頼んでもこの人は同じようにするんじゃないかって。

だから、確かめる必要があった。

この人が本当に僕を好きなのかを。

他の人と比べてどうなのかを。

この人がどれだけ僕のことを考えているのかを知りたかったのだ。

最初はいつも通りに"説得"を受けていた先輩だったけれど、それが一週間も続けばさすがにおかしいと思ったらしい。

ある日、いつも通りベッドに引き摺り込もうとしたところで先輩に声をかけられたのだった。

 

「お前、もしかして俺が誰にでもこんなの許すと思ってんのか?」

「…まぁ。先輩優しいですし」

「バカだな」

「……」

「好きだっつってんだろ」





逃がさない・離れない・渡さない定期。
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