さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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家族大好きなのは据え置きな一族。



その笑顔を向けるのは

姉さんを愛していた。

穏やかで、やさしくて、誰からも慕われていた姉さん。

競走バとしての才能は一族の中で見ればない方であったけれど、それでも観客に愛されていた。

 

「さすが私の███!」

 

それと比べて自分は。

クラシックは怪我で棒に振って、それでいてそれ以外はまったく問題なく周辺世代トップクラスの戦績だったから気づけば「あの世代はアイツ以外パッとしない」とまで言われるようになっていた。

……でも、そんなの別にどうでも良かった。

 

「姉さん」

「……███?」

 

自分には、姉さんさえいればどうでもよかった。

その頃には父はもうおらず、母も自分を産んですぐに亡くなっていたからきょうだい二人きり。

かくいう姉も…競走バ時代の予後不良が原因で何とか生きてはいるけれど基本ぼんやりしているような、そんな。

元から、自分の人生は姉さんありきで完結しているも同然だった。

故に今こうして姉の世話を甲斐甲斐しく焼いているのも…。

 

「姉さん、お風呂入ろうか」

「……」

 

昔、大きく感じていた姉は随分と小さくなった。

体重が減っているとはいえ軽々と抱き上げられるほどだし、その体も骨と皮だけ。

……でも、それでも。

姉は、自分が愛している姉は、自分の腕の中で安らかに眠っている。

……それだけでいい。

自分は、姉さんがいればそれでいいのだ。

だから、だから……。

 

 

あのウマは初対面からひどく人間味のないウマであった。

それは同室であった己にもそうであったのだから、それ以外はさもありなん。

寡黙で、ストイックで、ひとりを好む。

トレーナーともどちらかといえばビジネスライクで、向こうから話しかけてこない限りは一切コミュニケーションを取ろうとしない。

食事も基本ひとりで摂り、大勢と馴れ合う様子はない。

練習中は口数が少なく、気づけば姿を消している。

それでいてこちらが話しかけると反応を示すので耳が聞こえないとかではなさそうだが……こちらから話しかけないといつまでも沈黙を守っているのでそこまでする気はないのだろう。

 

(だが……)

 

本当に気になるのはその表情だ。

性格が出ているのか愛想はないものの顔立ちそのものは悪くないのでひとつ微笑みでもすれば人気が出そうな顔…(まぁ今の時点でもファンクラブができてはいるが)。

何を話そうともぴくりとも表情が動かないのに己は…。

 

(いつか、いつか)

 

一目で見惚れた。

美しい孤高。

誰もが手を伸ばす存在の、その近くにいることができる幸運を何度感謝したことか。

……嗚呼。

 

(笑ってくれれば、いいな)





無謀にも向けちゃった矢印。
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