さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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何にでも



貴方が言うなら

「お父さんは僕にどんなウマになってほしい?」

 

僕のお父さんは自分に自信のない人だった。

いつも暗い目をしていて、それでいて表情は穏やかに笑んでいて。

そんな人だったから元気づけたくて、尋ねたのだ。

 

───僕は、お父さんが望むのならどんなものにだってなれた。

僕には、それだけの才能があった。

お父さんが望むのなら、世界征服だってやってみせただろう。

世界の半分をお前にやろう、なんてありふれた征服宣言も、僕がすれば本当になってしまう。

そんな確信を抱かせる程に、僕という存在は特別だったのだ。

お父さんは言った。

お前が幸せに過ごせたら。

ただそれだけでいい、と。

……意味なんてない。

僕は生まれながらにしてすべてが完結していたんだ。

そんな僕の誕生に理由を持たせようとするのなら───お父さんが望むソレを叶えることこそが、唯一の理由だった。

 

「……」

 

僕は走った。

走って、走って、走って。

怪我しないように細心の注意を払って、ただ走った。

そうして着いた先ではお父さんが泣いていたんだ。

その顔を見て理解できた。

……理解できてしまった。

その時からだ、僕が"僕"になったのは。

特別であることを受け入れたんじゃない。

特別じゃないものがなくなったから、 僕は"それ"に成ったのだと思う。

……その後の記憶は曖昧だ。

気が付いたらお父さんと暮らしていて、事ある毎に甲斐甲斐しく世話を焼いてくるお父さんに申し訳ないやら、……。

僕は"僕"に成れたのに、お父さんは悲しそうな顔をする。

 

「お父さん」

「愛してるよ、プレアー。…お前がどんなものになっても」

 

 

俺の息子は変わってしまった。

物心ついた時から聡い子ではあったが、こうなるまで気づかなかった自分自身に嫌気がさす。

 

「プレアー」

「なぁに?」

 

空っぽを"ナニカ"で満たした息子は傍から見れば変わらないように見える。

けれど親の勘とはすごいもので、分かってしまったのが…残酷だなあ。

 

「お父さんのこと、好きか?」

「うん」

「お父さんのこと、憎んでもいいんだぞ」

「なんで?」

「…お前に背負わせた」

「僕が勝手に背負っただけだよ」

「…ごめんな」

 

やさしい息子は俺を責めない。

かつて俺があれだけ苦しんだ期待を背負ってもケロッとして逆に俺を慰める。

そうなるたびに息子の方が大人じゃないかって。

 

「お父さん、体調悪そうだし少し寝たら?」

「うん…」

「家事は僕がやっておくからさ。ほら」

「わ、分かった、分かったから!抱き上げるのはやめてくれ!」





なれたんだけどね。
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