どこにも。
かつて。
私たちきょうだいは一番上の兄について事ある毎に聞かされながら育った。
才能がありながらも夭折した兄。
今や誰もが認める最強馬の唯一のライバルだった兄。
『彼は善い馬だった』
『あぁ、彼の…』
兄を知る馬に会えば会うほど、そう言われた。
当時本格化には至ってはいなかったがその時でも既に頭ひとつ抜けていた最強に諦めず何度も何度も挑み続けて最期は───。
『……███、?』
『お前だ。お前さえ、いなければァッ!』
誰も彼も見ずに倒して、ひれ伏させて、ようやっとたどり着いた先。
恥ずかしげもなく兄の名を呟いた最強に私は、 ───敗北を叩きつけてやった。
『アハハッ』
喜びの意味で笑った訳じゃない。
自嘲の嗤いとも違う。
私は私を通して初めて兄を認識したアイツに傷をつけたことに一片たりとも後悔しちゃいないからだ。
『…███』
私はアイツを許さない。
……でもまぁ、それはそれだ。
もう過ぎたことだし今更どうしようもないしどうでもいいことだ。
最強だったアイツを降した私はそれ以降ちっとも勝てなくなった。
いやまあ、同性限定のレースなら勝っていたが混合になると、とんと。
それでも件のアイツに唯一敗北を刻んだ馬としてそれなりの人気はあったから引退後も安泰といえば安泰…。
「ふぁ……、」
大きなあくびをして、背伸びをしてシャンと立つ。
「にぃたん」
「ん、どうした?」
*
アイツは俺の前でいなくなった。
足からは骨が突き出て、ニンゲンからは悲鳴があがって。
近づこうにも勝った馬としてニンゲンが俺をいつもの場所に連れて行って近づけさせなかった。
……だから俺は、アイツの最期を看取ってやることが出来なかった。
それからしばらくして、俺はレースというレースを勝ち続けていた。
けれど走る理由もない。
走りたいわけでもない。
ただ、それでも時折思い出すことがあったからたまに本気を出してニンゲンから賞賛をもらって。
(███…)
でも。
そんな俺の傍にお前はいない。
誰もが俺を見て諦める。
普段でも近づいてこようとしない。
お前は、もういない。
ライバルがいなくなり、することもない日々は退屈だ。
ただぼんやりと過ごして毎日を無駄に過ごしていた。
そんな日々を過ごして、
『お前のせいだ』
───そこには、お前の『
『お前さえいなければ』
『まがい物』はそう告げる。
…誰に、誰に許しを得て。
『その姿をとっている、下郎』
俺の唯一、俺の幸福、俺の、俺の、俺の!!
『███の姿を!』
────かの星は、輝かない。
当人は知らぬばかり。