心の底奥深く。
ザンさんはぼくのことが好き、らしい。
彼本人が言うには『本気』で、ぼくのことが欲しいとか。
「やっぱり変な人だネ」
ぼくと友だちになる人だからと言われればそうだが、好き好んでこんな狂人を好きになるザンさんもザンさんだ。
この、人を好きになるという行為が、ぼくはよくわからない。
そもそも、好きってなんなのか。
それがまずわからない。
だからザンさんや今はもういない妻がぼくを好きな気持ちもよくわからない。
……でも、もしぼくが誰かを本気で好きになれたら、それはきっといいことなんだろうと思う。
だってザンさんはいい人だもの!
そんな人と一緒にいられたらきっと毎日楽しいだろう!
……でも、やっぱりぼくにはわからない。
誰かを好きになるということが、どんなものなのか。
「好きだよ、ザンさんのことも」
ちゃんとした倫理はある。
少しでも狂いがあればきっと、求められるがままにぼくはザンさんの愛を受けいれていただろう。
けれど僕にはもう、もういないとはいえ妻がいた過去があって、だからその一線を越えることは……できない。
……でも、ザンさんならきっとそれでもいいと言ってくれるのだろう。
やさしいから。
ぼくとの未来を本気で考えてくれていて、ぼくのためならなんでもしてくれる、そんな人だ。
だからぼくはザンさんのことが好きだし、彼のためになにかしてあげたいとも思う。
でも、やっぱりそれは恋じゃないのだ。
友に対する愛ではあるけれど、恋ではない。
この気持ちはきっと、そう呼ぶべきものなのだろう。
でもいつかはぼくも誰かを本気で好きになってみたいと思う。
燃えるような、自分を焼き焦がすような、そんな。
「好きだよ、ザンさんのことも」
そうしてぼくは、今日も今日とてありふれた愛の言葉を返すのだ。
*
アイツは残酷である。
一思いに振ってくれればいいものを、毎度毎度一縷の希望を持たせては打ち砕くのだ。
アイツにはその自覚がない、俺を嫌いではない、だが本気で好きでもない。
そんな残酷な言葉を繰り返し、俺を傷つけているとも知らずにへらへらと笑っているのだ。
だから俺もまた残酷であると言えよう。
俺はアイツに恋をしているのに。
俺は本気で愛しているのに。
アイツは俺を好きにはならないと言うのに、変わらず。
……ああ、わかっているさ、俺が悪いんだろう?
でも俺だって努力したんだよ、これでもな?
……まあ、俺の努力を無に帰すくらいアイツはいつも俺に巣食ってきて。
友に対する、だが友に対するにしては重い愛を向けてくるものだから。
……まあ、やはり俺のせいなんだろうさ。
アイツを好きでいる限り俺はいつだって苦しい思いをするのだ、恋は甘美だと言うが、まったくもって反吐が出る話である。
「あぁ、本当に」
バカな話。