一番安心できる場所。
走るのをやめた後も先輩も暮らせるようになった。
同族に嫌われるばかりの俺に普通に接して来てくれた唯一。
家族や親族だけしか信用できなかった俺の、唯一。
『先輩』
『おう』
大人になった今も、俺は同族が怖い。
"仕事"した相手は少しマシではあるが、それでも心から信用はできない。
人間にも一歩引いてしまうが、それで先輩と引き離されるのは絶対に嫌だ。
そんな俺に擦り寄って、先輩は小さく笑う。
『俺がいるだろ』
当たり前のように、そう笑った。
……ああもう。
本当にもうっ!
もう絶対離してやらないですからねっ!!
なんでだよ先輩!?
馬鹿か?馬鹿なのか!?
俺が頼りないのはわかってるけどさぁ!
そんな優しい声しなくていいじゃんよぉおおおおおおっ!!!
うわぁああああんっ!!
でも好きぃいいいいい!!!!
今すぐにでも床でゴロンゴロンしたいぐらい悶える。
俺は元々先輩の見た目も声も大好きなんだ。
そんな相手から自分だけに向けて甘ったるい声出されてみろ、死ぬぞ。
……あ、いま意識飛ばしてたわ。
まあいいか。
と、そんな馬鹿なことを考えている間に先輩の話は終わっていたようだ。
先輩は俺の心の内を隠した完璧&真面目な反応に満足したのか、また話し始めるがその内容は頭に入ってこないし入ってこなくても問題ないから別にいいか。
俺は先輩の声をBGMにしながら考えるのはこれからのことだ。
"仕事"が上手くいかなかったら故郷に帰らされるらしい。
故郷も好きだけど、大好きな先輩と一緒にいられる現状を捨てるなんて!
でも今人気なのもどうせ一過性だしなぁ…。
『はぁ』
『どうした』
『先輩と離れたくないなぁって』
『…どこのどいつがそんなこと言った』
『え?』
『この前も散々やったばかりだってのに…』
はァ、とため息をつく先輩の雰囲気が段々と重たく鋭いものになってくる。
こ、これは。
まずいことになったかもしれない……!
俺は今思うことは全部言ったと思うし嘘はついていない。
先輩から離れたくないのも本当のことだ。
決して他の同族からなにか言われたとかではない!断じて!!
あばばば……っ!!
…………なんとか乗り切れないだろうか?
いやでも無理か、だって先輩は俺自身がもう気づけなくなった俺の傷ついた心を的確に読める方だし……。
俺がそう考えている間にも先輩の雰囲気と視線はますます鋭くなる一方だ。
そしてとうとう痺れを切らしたらしい先輩が『明日…』と低く漏らし。
(アッ)
『俺に任せとけ』
『い、いやホントに大丈夫ですって!ねぇ、先輩!?』
安心しきってる後輩とその座を譲るつもりは無い先輩の話。