さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

1441 / 1441

どこの世界でも起承転結の起は悲惨になる銀弾概念。



裏ではやばそ〜…

幼いお父様が現れた。

それもかつての自分たちと同じ…、それよりかもっとひどい扱いを受けた姿で。

 

「え、と、おいで…ッ!?」

 

差し出した手は本気で噛みつかれた。

向ける目には敵意と恐怖。

だがその目は片方しか機能していないようで、機能していない方は遠に失っているよう。

 

「ごめん、なさいッ!怖い思いさせちゃって、ごめんなさい……ッ!」

 

それでも必死になって抱き寄せれば、今度は噛みつかれることはなく、ただ困惑された。

その困惑はきっと痛みと恐怖と、それから……。

 

 

「あ、あの……」

「……っ!」

 

何とか家に連れ帰り、声をかければ彼はまた逃げようとした。

 

「待って!何もしないから……!」

「……」

 

彼は足を止めてこちらを向いた。

 

「えっと……、僕はシロガネハイセイコと言います。他にもこの家には僕のきょうだいがたくさんいて…」

「……?」

 

不思議そうに首を傾げる彼の指先は曲がっていて、後天的なものだと推測できた。

おそらく歳も見た目の体つきよりもっと上だろう。

 

「……僕たちはみんなここで暮らしているんです」

 

それからゆっくりと僕は話す。

この家のこと。

ここは安全であること。

この家でどうやって暮らしているか……などなどについて話した。

その間に彼は眠ってしまったけれど、また…一人ぼっちになんかさせるものかと僕はその手を握った。

 

「あ、あの……」

 

それからまたしばらく経って、彼はようやく言葉を発するようになった。

「はい」と僕は答えるが、彼はまた困った顔をした。

 

「おにい……さん、は」

 

「え?」と思わず聞き返す。

すると彼は少し考えて、もう一度言った。

 

「……シロガネハイセイコさんは」

「あ、はい!えっと……、ハイセイコでいいですよ?」

 

そう答えれば彼は小さく笑った。

それから、

 

「ぼく、何もできませんけど…それでも、いいんですか?」

「え……」

「えっと、それは前の家で……」

 

慌てて弁明してくる彼に思わず言う。

 

「大丈夫!……ただ一緒にいてくれるだけでいいんだよ」

 

そうしてまた経って、彼は少しずつ言葉を発してくれるようになった。

 

 

幸せと呼ぶには呼べない悲惨な日常ばかりだった。

愛なぞ与えられることはなかったし、この風貌を見れば誰だって僕が『バケモノ』だと思うだろう。

それでも僕は、あの家族を愛そうと思った。

曲がりなりにも血が繋がった家族であったし。

たとえそれが自己満足でしかなかったのだとしても、僕が愛してあげたいと思ったのだから……。

 

「……」

 

空洞になって久しい片方の目を撫でる。

 

「……はぁ」





どこの世界でも顔に傷を負うんだよね。
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