とろん、とろりと、腹の中。
「…いやいやいや、あれは」
その日もいつも通り、子どものレースを見に来た…はずだった。
だが僕が目を奪われたのは、
「おいおい、…とんでもない置き土産遺してくれたなぁ!」
その子は、少し前に亡くなったマブダチの子どもで。
ただ、眺める僕の視線の先で綺麗な鹿毛の髪が、風に揺れていた。
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「それで私の元に来たと?」
「そうだよ。…にしてもキミ見た目があの頃と変わってなくないかい?───ルドルフ」
「…ふふ、世辞が上手いですね」
その子の走りを見た数日後、僕は遠き日の知り合いであるシンボリルドルフの元を訪れていた。
ふたりとも大人になったなぁ、と思いながら彼が淹れてくれた紅茶を飲む。
僕がその日、彼の元を訪れたのは久しぶりに顔が見たかったから…というのもまぁあるが、いちばんの理由は──最近見たあの子の走りで。
「あなたが、目をかけるほどですか?」
「…うん。とんでもないモン遺されたなぁって思った、正直」
「…」
鋭い目をして押し黙る彼に言う。
第4代の三冠バたる、彼に言う。
「あの子は、…████████は、三冠バになるよ」
「そう、ですか…」
すぅ、と細められた目に内心「怖…」と思うが嚥下しておく。
ずっと黙ったままの彼をぼうっと眺めていると「…そう言えば期待している子がいるとか」と聞かれたので「あぁ」と返答する。
「シルバープレアーって子でね。甥っ子の…シルバーチャンプの子どもなんだけど」
「はい」
「なぁんか放っておけなくてね、時々面倒見てるんだ」
「…なにか、惹かれたものでも?」
「ん〜、惹かれたって言うか…似てる?、から?」
「似てる?」
「うん、昔の僕に、ちょっとね」
「…」
「いや走り方の方だからね!?走り方が似てるの!」
「分かってますよ。そう貴方みたいなのがポンポン生まれたらたまったもんじゃないです」
「…酷くない?」
食い気味に返ってきた言葉がちょっとココロの柔い部分に突き刺さる。
少しシクシクと泣き真似しようにも「で、何です?」と続きを促され、
「その、シルバープレアーくんは████████という子に勝てると?」
「ん?いや、勝てないと思うよ?」
「は、え?」
「力全部を注ぎ込んでようやく勝てる…かも?ってくらいじゃないかなぁ、アレは。
でもプレアーは力の入れ方が上手いから絶対そんなことしないだろうし」
自分を慕ってくる幼子の姿を思い出してくすくすと笑う。
あの子は、プレアーは、僕と違って、力の入れ方が上手いから。
僕みたいな、あんなひどい怪我をすることは、一生ないだろう。
「まぁ、プレアーは一発ドカン!ってタイプじゃないからね。
気楽に応援するさ」
「は、はぁ…」
「じゃ、ルドルフご清聴ありがとう。
また機会があれば会いに来るよ」
そう言って立ち上がる僕を引き留めようとする手をサッ、と避ける。
「ごめんね、ルドルフ。
今日は早く帰らないと子どもたちの祝勝会に間に合わないんだ」
だから、ごめんね?
努めて、落ち着いて、ゆっくり彼に謝罪を言えば、
「……はい、分かりました。
また、来られるのをお待ちしています…先輩」
伸ばしていた手を降ろしてくれたので、にこりと僕は微笑む。
それにしても。
…本当にキミは、繕うのが上手いよ、
(…あ〜……怖)
帰路につきながら深深とため息をつく。
…よくあんな目を、治めることができるなぁ、という気持ちを込めたため息を。
「あぁ…、ホントに怖かった…」
…でも、僕はそう簡単に、
「腹の中にゃあ、落ちやしないぜ?」
僕(元性別生存√のすがた):
仲良かったヤツらのほぼほぼに置いていかれてしまった。
ちょっぴし、寂しい。
その寂しさを後進を可愛がることで癒している。
残ったもの同士である皇帝とはまぁまぁ親しくなった。
けど皇帝の目が怖いのであんまし積極的には関わろうとしない。
最近甥の息子である銀の祈りと同期になる、とある鹿毛の子に注目し始めている。
なおその鹿毛の子が三冠バになる発言は史実の白峰おじさんから。
新馬戦を一目見た瞬間、「あの子、三冠馬になるね」って言う白峰おじさんなんだ。
ちな、銀の祈りの性質をある種、自分よりも残酷だと思っている。
流石の僕もこの歳だけど、…キミのような若造に、僕が喰べられるわけ、ないだろう?
皇帝(元性別僕を独り占めのすがた):
時折ふらっと僕が会いに来てくれるようになって嬉しい。
今度こそ仲良く()なりたいと思っている。
可愛がり()たいとも思っている。
けど僕の目が後進に奪われるのは…(ハイライトオフ)。
…せっかくの二人きりなんですから、他に目を奪われるなんて、野暮ですよ。
銀の祈り:『史上最強の
シルバープレアー。自分を『普通』と称する青年。
負けることで強くなる子であり、二番手として、二番手なりの矜恃がある子。生涯完全連対をキメた。実は銀弾と同じく芝、ダート・距離・バ場を不問でいける。
僕いわく『自分と似ている』とのこと。それが皇帝に言ったとおりなのかはさておき…。
だが力の入れ方がよく分かっている、という名のリミッターを外せない子でもある。
リミッターを外せる子だったら当代随一になれる(なる)才能有り。
だがその場合は早期引退を余儀なくされる。
しかしリミッターを外せないが故にほかの子より長く走れ、また長く走り続ける間に力の許容量を少しずつ拡張していけるという稀有な才能を持つ。
そして、その拡張の結果がラストランの凱旋門賞となり、最終的にぶっちぎりの大器晩成バへと成長した。
…あはは、僕なんてどこにでもいる
『英雄』なんかじゃありません。そもそも『英雄』なんかに成り得る器でもないですし…。
でも、そんな僕を超えていかなくちゃあ、みんな永遠に───