さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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みんな大混乱!



混線

(あれ…?)

 

ぼんやりとした頭で周りを見渡すとそこは慣れ親しんだ栗東トレセン。

がしかし、…何かが違う。

その違和感にこてりと首を傾げていると不意に声をかけられた。

 

「そんなところで何やってんですかテキ」

 

振り返って相対した相手は可愛がっている後輩によく似ている子。

けどやっぱり同一人物とは同定できない違和感に微かに顔をしかめると同時に「行きますよ」と手を引っ張られて。

 

 

それは突然のことだった。

いつも時間厳守の白山息子のヤツが来ないとみんながどこかソワソワしていて。

大袈裟な、と思わずそう口にしてしまったが、徐々にみんなが落ち着きを失い始めたことからもしかしたらと思い始めていた。

アイツに限って時間すぎても来ないってことは何かまずいことが起きているに違いない。

そんな時だった。

息も絶え絶えにドアを開けて現れたのは見慣れた顔。

それを見て思わず大声で叫んでしまった。

何やっているんだ!

いやそもそも何があったんだ!?

そう続けようとした言葉はけれど空気に溶けることなく喉で消えることになったのだ。

何故ならそこには────。

 

 

白峰透は最高齢の中央競馬所属騎手だ。

ちょっと低迷期を経て、最近もそこそこG1を勝っている。

そういう背景がある中で、

 

(まさか、違う世界に落っこちるとは)

 

騒がしい周囲に遠い目をしながら、自分と同じように落ちてきていた現在の相棒-グッバイサンセットを撫でる。

体つきを見るに己がこちらに来た時とそう変わりらしい変わりはないらしいと安堵の息をついて。

 

「やろうか」

 

ひとつ切り替えて。

アクセルを軽く踏むように、体重をかければ一発でトップスピードに。

それでもグングンと、まだスピードを上げていけるのだからズルいだのなんだのと色々言われたのは記憶に新しい。

この子で初めてG1を勝った時なんてそりゃもう凄い騒ぎだった。

長年ジョッキーをやっていてそれなりに注目を集めていたとはいえ、G1勝利が、それも数を積み重ねていけば当然見る目も変わるというもの。

 

(さて……どうしたものか)

 

そんな相棒の感触を確かめながら周囲を軽く見渡せばそこは別世界かと言わんばかりにこちらを見てキラキラとした目を向ける人々ばかり。

 

(…なんか、調子狂うなあ)

 

 

かくいう一方、ある牧場にて。

 

(……ふぁ〜、)

 

きちんと掃除された馬房の中で一頭の小柄な芦毛の牡馬が目を覚ます。

パチパチと瞬きしてから慣れた足取りでひょいひょいと簡易的なターフに出ると遊ぶように走り出して、

 

『ヒヒィーーーーンっっっ!?!?!?』

 

その姿を遠くから見て叫ぶようにいななく老牝馬が────?





生涯現役な白峰おじさんと…?
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