その内実にあるのは?
どうにも目を惹くウマだった。
すれ違った際になんとなく振り返ってしまうような。
誰もが認める美人…とは言い難いのに。
どうしようもなく、そのウマに惹かれて。
「……」
誰もが彼-シルバーチャンプに惹かれている。
何故か、は分からない。
体格はお世辞にもいいと言えないし、血統も……まぁ、といった具合。
ただ、彼は誰よりも強い。
その強さが、惹かれるのだろう。
そして同時に……彼の弱さも、誰もが知っている。
だからこそ。
彼に惹かれた者は……彼を助けたいと思うのだろう。
それが、この熱の根底にあるものなのかもしれない。
(……)
シルバーチャンプのレースを何度も見たが、彼が本気を出すところを見たことが無い。
いつも、ギリギリで差し切るのだが涼しい顔ばかり。
(……)
そんな彼の勝利を見たいのか。
それとも、彼の敗北を見たいのか───分からない。
喜びも、悲しみも特に見えない表情は日常生活でも変わらず。
積極的に絡む相手には少しばかり顔を顰めてみせるが、それで怒ることはない。
いつも無口で、愚痴も泣き言も言わない彼。
そんな彼を気に掛ける者は多かったが、共に歩む者はいなかった。
彼が誰かを頼る姿も、想像できない。
それなら───自分が頼られたいと思ってしまうのは……欲張りだろうか?
「……」
朝の冷たく澄んだ空気を深く吸い込んでみる。
(……よし)
なにせ同期にはライバルが多すぎる。
世間がいうには『黄金世代』らしい自分たちはみんながみんな揃ってシルバーチャンプに惹かれているのだから!
「でも───負けない」
諦められたなら良かった。
他の誰かが彼の隣にいることを、許せたらよかったのだが。
……そんなことが出来たなら、そもそもこの想いを抱えてなどいない。
シルバーチャンプに、想いを寄せている。
もはや諦めているというのに、未だに捨てきれていないのか。
(全く)
不毛なことだ。
*
「お前、良い奴いないのか?」
そんなバカみたいに浮ついた話を先輩としたのはいつのことだろう。
もうよく覚えていないが……随分と前の話だということは分かる。
そしてそれが唐突に思い出したのは……きっと今日のレースを見たからだ。
それらのレースは、己が孫たちの勝利で幕を下ろした。
その誰もが『黄金世代』と呼ばれた同期たちを父に持った子どもたち。
まさか自分の系譜からここまで優秀な子たちが生まれるとは夢にも思わなかったが……。
それでも、今回の世代の子らは特別だった。
そして、その中でも一際目を引いたのが彼だった。
「……似てるなあ」
いつかに似ていた。