さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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あいしていたの。



逆らえぬ残影

「僕がいなくなっても、幸せになってね」

 

そう、キミが言ったのはいつのことだったろう。

縁起でもないことを、と返したのは覚えている。

掴みどころのないウマだった。

付き合ってもらえたのも奇跡的なことで、いつだって手のひらで転がされていた。

 

「上手に、幸せになってね」

 

いま思えば。

彼女はあの未来を予見していたのかもしれない。

遺骨すらも満足に帰ってこない死に様。

確かに生きていたのに、幻のようになって。

その最期に、彼女は何を思ったのだろう。

 

*

 

──別れよう。

そう切り出したのは、彼女からだった。

あの日から、ずっとすれ違っていた。

キミが僕を避けたから?

僕がキミを避けたから?

それとも、もっと別の理由があっただろうか。

……いや。

もう、いいのだ。

あの頃が遠すぎて、もう何も思い出せない。

 

「……」

 

私はずっと、この部屋にいる。

ふたり、世間に秘密で選んだ部屋にひとりで暮らしている。

君が残した数少ない、雑貨や物をそのままの場所に安置したまま。

……もう、いいのだ。

君がいた頃から進みたくないから。

だから。

もう、いいのだ。

私はずっと、この部屋にいる。

 

・

・

・

 

キミのいない世界にも嫌々ながら慣れた頃だったと思う。

もう、いつのことかは覚えていないけれど、そんな頃だ。

私はあるウマと出会った。

それは、本当に偶然だった。

いや、あるいは必然だったのかもしれないが、とにかく私はそのウマと出逢ったのだ。

そのウマは私より若かった。

がしかし、どことなくキミに似ていた。

体格など似ても似つかないのに、何故だか。

ふとした仕草にキミを感じて、私はついつい目で追うようになっていた。

はじめこそ、奇妙な関係だったと思う。

そのウマと私との間に、大した繋がりはなかったのだ。

街で何度か出逢って、その度に二言三言挨拶を交わすだけ。

……まあ、少しばかり変な会話もあったように思うけどもね?

 

「やぁ」

 

そんな関係が変化したのは最近だ。

ちょっと前に彼女に想いを告げられたのだ。

正直言って驚いたし困惑もしたけれど……でもすぐに納得してしまったんだ。

ああこの子か、ってね。

……いつか、キミに聞いていた、キミのきょうだい。

大家族の一番上だったというキミには下にたくさんのきょうだいが、って。

そりゃあ、

 

「似てるわけだよなぁ…」

 

ぽつりと呟いた私にあの子が聞き返す。

結局、あの子からの告白に私は逆らえなかった。

キミを感じる、あの子からの言葉に。

 

「何でもない」

 

誤魔化すように笑えば、知らないフリをしてくれる。

あぁ、本当に。





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