わかりきってること。
「……」
一生を共にすると決めた相手はよくモテる。
現役時代からモテていたが、引退後はそれに増してだ。
まぁ、ファンサービスはするべきだし、自分を起点に子どもを応援してくれたらもっといい。
「おかえり」
「うん」
帰ってきた相手の袖を控えめにつまむ。
手を繋ぐことは、できない。
(自分が、あの人たちみたいなウマだったら)
脳裏に浮かぶのは優秀な己のきょうだいなり、親戚なり。
自分の家系はレースでは知らぬものはないとされるほどの名門中の名門で。
日本海外とわずG1を毎年勝っている。
…その血は自分にも流れている。
(でも、自分は)
勝ててもGⅡまでだった。
いや、この戦績こそが自分の価値なのかもしれない。
そう考えなければ、あの人たちと自分を比べてと心が折れそうだから。
…相手とはチームが同じだった仲だ。
同期で、距離適性もまぁ同じ。
併走パートナーだってよく務めた。
部屋だって同室だったし、喧嘩らしい喧嘩もしたことなんて。
(…どうして)
選ばれたのは、自分だったんだろう。
相手には自他ともに認めるライバルがいた。
それ以外にも、それ以外にも。
……確かに自分は相手の大事なパートナーで、傍にいないと落ち着かないし、相手もそうだと言うが。
本当のところはどうなのか。
自分は、相手に見合うのだろうか。
……そう考える、自分が惨めだ。
(でも)
それでもいいと思えたのはあの相手が自分を好いてくれたからで。
だから、自分も捨てるはずだったこの想いを持ち続けて。
「……」
*
正直、一目惚れだった。
今もなお、押しも押されぬ名家の直系のひとり。
あの家系の多くが有する美しい芦毛に黒曜石のような瞳。
自分以外にも、チームの面々も見惚れていたし、後から入ってくる後輩たちも言わずもがな。
現役の途中にはこちらより先にファンの投票でぬいぐるみ化されていたくらい。
「…███」
そんな相手を手に入れるのは骨が折れた。
なにせ孤高だったのだ。
あの家系の大勢はそうだと聞いていたが、思った以上だった。
同期一ストイックだったし、オフもろくにあの年頃のオフらしいことをしていなかった。
どこに一日中体を休ませて終わるティーンがいるんだっていう。
(だから、俺は)
周りは俺を選ぶと思っていただろう。
実際、その通りだ。
周囲に目を配り、よく話を聞き、上手く立ち回ったのだから。
はじめから誰にも譲る気はなかったが、いつからかその欲が強くなっていた。
あの家系が異性同性問わず優秀な遺伝子を後世に残すため手段を選ばぬのは有名だったのもあったし。
…ここまで苦労して手に入れたのだ。
手放すなんて真似は絶対にしたくない。
(他の奴らに、見向きなんてさせてやるかよ)
逸らさせてやらない。