何も気づかないあなたと。
【飛行機雲】は案外嫉妬深い。
パッと見は理想的な主人公みたいなツラして、二人きりになるといつもこうだ。
(むすっ…)
「いい加減機嫌直せって」
アイ先輩-アーモンドアイと話しているところを見られたのは悪手だった。
俺のファンを名乗るあの一団と話している時も大概機嫌が悪くなるが、アイ先輩と話しているところを見られると一発である。
それまでどれだけ機嫌がよかろうとも、一瞬で最悪のドン底にまで落ちる。
地面に向かって急降下だ。
俺に抱きつく彼女の腕に力がこもり、しがみ付いてくるような格好になる。
ちなみに顔は俺のあってない胸に埋められている。
だから今、彼女がどんな顔をしているのかは分からないが……。
(……まあ、十中八九)
機嫌が治るまで、長い。
(さて、どうしたもんかな)
俺は【飛行機雲】を宥めながら考えるのだった。
*
先輩-シルバアウトレイジはたくさんの人に慕われている。
それはあの人の生まれ持った善性から来る、思わず縋りたくなるような救いの数々もあるのだろうけれど…。
(ギリッ、)
あの頃。
とてもとても小さな頃。
あの人の前にいたのは、僕だけだった。
近所に同じ年頃のウマ娘は僕と先輩だけで、暇さえあれば気軽に互いの家に遊びに行ける程度には仲が良かった。
だから、あの人の特別は僕だった。
僕があの人の一番で、あの人は僕の一番だったのだ。
……でも。
(なんで)
今のあの人は違う。
先輩の親族ならまだいい。
でも、アーモンドアイは、いつの間にかあの人の特別になった。
いや、元からそうだったのかもしれないが……少なくとも僕はそう感じていなかったし、そう感じていたら今のような関係には
(ギリッ、)
だから、ここ最近の僕はとても、自分で思うほどに機嫌が悪い。
外では取り繕えるが、先輩と同室の寮に帰るとこの有り様だ。
先輩がやさしいのをいいことに、僕はあの人に甘え続けている。
あの人は、僕だけのものだ。
(だから)
僕は先輩に言った。
先輩を僕だけのものにするために、あの言葉を。
「『約束』、しましたよね?あの時」
子どもの頃のただの戯言。
でも先輩なら、一度約束したことを簡単に無下にする人ではないから。
僕はあの、子どもの頃によく遊んでいたどこまでも広い草原で。
先輩に全てを捧げた。
「ね?」
先輩はこういった時、冗談とかわすことをしない。
故に今の先輩は困惑しっぱなしで、でも僕のことを拒絶できないでいる。
あぁ、やっぱり…。
(やさしいひと)
あなたがこんなにしたんだよ。