きれいなおり。
家の話をしよう。
その家のことを紹介されたのは、現役を終え、そのままその土地で骨を埋めると決めて少し経ったころだった。
そろそろこの留学生用のアパートから別のところへ移らなくちゃいけないなぁと考えていた時に「いいところがある」なんて。
キミの言うことだからと疑いもせずホイホイ着いて行った結果が、
「…この家?」
「そうだよ」
「えぇ……」
家だった。
それはそれは、立派な、大きな家だった。
庭も広いし、豪邸ってこういうのを言うんだろうなって。
「キミのために建てたんだ」と穏やかに言われた言葉を聞かないふりしながら、 その家のことを説明されるのを黙って聞いていた。
そして、最後にこう言われたのだ。
僕らふたりの家だよと。
そう、僕らふたりの、だ。
……うん?と一瞬思考が停止したのは言うまでもない。
いや、でもだって、おかしいだろう?
たしかに僕はこの国で知らぬものはいないウマになったけど。
僕のために建てた家?
しかもこんな豪邸?
それはさすがにどうかしてると思うし、そもそもそんなお金どこから出てくるんだ?と疑問は尽きなかった(まぁお察しの通りの結果ではあったが)。
「気に入った?」
「…もう少し小さくてもよかったんじゃない」
「またまた」
大きい手がやさしく手を引いて。
その大きな家の中へと招き入れられる。
そして、そのまま。
その大きな家の、プライベートルームへと連れていかれた。
……いや、もう、ね?
ここまで来ればさすがに僕でもわかるさ。
キミの言う“良い家”がどういう家なのかは。
でもまさかそんな、ねぇ?とは思ったけど。
もう部屋も用意されてたから逃げ場なんてなかったし。
いや、まぁ別に逃げる気もなかったんだけども。
ただちょっと心の準備が欲しかっただけでね。
「スー」
「…うん」
その部屋に入るまでに見た内装やらすべてが、僕の好みだった。
キミの好みそうなものは見たところなく。
"ここ"が僕のために誂えられたものなのだと、家の中に入ってからの数分で分からされたぐらいには露骨で。
不安でもなく、焦燥でもなく、ただ───これが当然だというキミに、僕は。
「ずっと一緒にいようね、グローリー」
*
あの子のために誂えた檻。
きっと何処へでも行けてしまうキミを捕らえるための檻。
キミが出ていかないように、キミの好きなものをたくさん詰めこんで。
「…ほんとうにバカだなぁ、キミは」
やわく、あの子の手が僕に触れる。
「キミさえ、グローリーさえいれば、僕は」
それで、いいのに。
あなたさえいればいいのに?