知らないふり、しなくちゃね。
その世界でホワイトバックは───牝バとして生まれていた。
初めは牡バとして生まれたホワイトキティ共々驚いていたが性別が変わろうとお互いを愛しているのには変わりなかったため、変わりなく結婚し、子を成した。
がしかし、
「……」
変わらず、ホワイトキティは年若くして亡くなった。
生まれた子──ホワイトリリィを抱かせてあげられたことが唯一の救いではあったが一族の支援なしでは母ひとり子ひとり生きていくには厳しい世界。
ホワイトキティが居なくなってからのホワイトバックは気力を失い、粛々と生活を営んでいた。
ホワイトリリイの健やかな成長だけが生きがいな、そんな空虚な日々。
「バック…?」
その日々に光がさしたのは唐突で。
脚力の強い我が子のために良い蹄鉄を…と考えて町を歩いていたところ手を掴まれた。
ぼんやりと振り返ればそこには懐かしい…年下の親友の姿。
「久しぶりだネ」
「おう」
場所を移し、ふたりで話をする。
どうやら親友-ザンさんはトレセン学園を卒業して少し経った頃らしい。
そして今回も蹄鉄師になろうとしていて、今は師匠を探そうとしているところ…で。
「なら、ウチの家に来る?」
「は?」
「ぼくの親戚に蹄鉄作ってる人がいるんだよね。職人気質の人だからあんまり依頼受けないし色々と教えてもらえると思う」
「え、いや、それはありがたいが」
「じゃあ決まり」
気心の知れた親友であるし、我が子も懐いていたザンさんなのだ。
男女ふたり屋根の下と言っても自分と彼の仲であるし、こんな身体中傷だらけの女を愛するなんてあの子以外にいないのだから、と。
……そんな、普通の人が聞いたら卒倒しそうな考えの元、ホワイトバックはザンさんを家へと連れ帰った。
それからの日々は楽しかった。
今までずっと母ひとり子ひとりで過ごしてきたからだろうか。
毎日が新鮮で、ザンさんと共に過ごす日々はあっという間に過ぎていった。
そして、ある日のこと。
いつものように夕食の準備をしていると背後から抱きしめられる感覚があった。
(ああ……またか)
日課に割り込んできた熱に少し呆れつつ首だけで振り返るが、向けられている瞳の感情は…。
「そんな目で見たっておかずしか出ないよ」
気づいている。
が、目を逸らし、おどけた口調で誤魔化す。
ザンさんは、ぼくを好きでいる。
それはきっと、男女のそれ。
そしてそれをぼくは知っている。
けれど、その想いに応えることは出来ないから……気づかないふりをするんだ。
ザンさんは優しいからきっとこの想いを打ち明けたらぼくを困らせてしまうと思って……ずっと我慢してくれているんだろう。
(ごめんね)
その優しさにつけ込んでしまっている自覚はある。
でも、もう少しだけ……このままの関係でいさせて欲しいナ。
そう願いつつ、今日もまた彼のやわらかな熱を受け止めるのだった。
普通の同居人でいたいの。