さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

17 / 1539
諦めることは誰にだってできる。


退屈と諦念について

1987年、シルバーバレットは8歳になった。

今年はG1に出ないことを選択し、G2G3を使いながら来年の天皇賞・春を目指すことになっている。

 

彼の始動は7月のG3・札幌記念となった。

ダートの2000mだが3歳時に同じような距離を走って問題がなかったので出走した。

 

彼は相変わらずのようであんな骨折なんてなかったかのように駆け抜けて勝ってしまった。

後方を引きずるように、競り合えば壊されることを覚悟しなければならない速さで駆けていく。

影を踏むことすら許されない。許されるのは彼を追うことだけなのだ。

*

 

札幌記念から小倉記念、ウインターステークスと勝ち進んだ。

脚の様子は骨折の方は良化に向かっているが、また逆の脚に屈腱炎の予兆が見えていることが分かった。

 

走ったあと、足を冷やしているがやはりあのスピードは彼の脚に負担をかけているのだ。

僕たちはどうにか彼にG1を取らせたいと思っている。

 

 

1988年になった。

シルバーバレットは変わらずだが不安は拭えない。

2月G2・京都記念に出走。

誰も寄せ付けない走りは健在だった。

 

3月G3・中京記念。

やはり変わらない。

誰も寄せつけず、誰にも興味のない走りだった。

 

そして、

 

「あぁ…、」

 

屈腱炎の発症。

シルバーバレットは、また、天皇賞・春に出走できなかった。

*

 

また脚をやった。屈腱炎というらしい。

辞めさせられるのかと落胆した騎手くんたちを見て思った。

まぁ、辞めてもいいかと少しばかり思考する。

だって、最近は誰と走っても面白くない。

昔からそうだ。誰も僕に追いつけない。

 

一番初めにゴールを切るということは誰にも負けたことがないということ。

負けたことのない僕は周りと、ある種の隔絶があるのだろう。

僕が走るのを見て下らなさそうな顔をする人間を見た。

一緒に走る馬たちも僕を見てあからさまに諦めていた。

 

何も、面白くない。

走ることは好きだ。けれども楽しさを感じられない。

 

「ヤダ!」

 

思考を断ち切る声にフッと意識が浮上する。

何かに抱き着かれた感覚に視線を下げてみるとあの日の子どもが僕に抱き着いていた。

 

*

 

シルバーバレットが屈腱炎になった。

屈腱炎は競走馬のガン。万が一、治ったとしてもいつ再発するか分からない。

彼の度重なる不幸に、「もう、引退しようか」と諦めの声が上がる中で、

 

「ヤダ!」

 

それを断ち切ったのはシルバーバレットの馬主の息子である███くんだった。

 

「バレットは誰よりも強いんだ!それが証明できてないのに!」

 

××くんはシルバーバレットに抱き着いて動かなかった。

その声に導かれたようにシルバーバレットの顔が上がる。

 

(あぁ…、そうか)

 

やはりお前も諦められないか。

 

 

顔を上げたシルバーバレットの目にはまだ炎が灯っていた。




僕:走ることは好きだがレースを走ることは面白く無くなっていた。
度重なる怪我に諦めようかとしていたところ、馬主の息子くんの叫びを聞き、何とか持ち直す。
子どもがこれだけ期待してくれてるんでね、恥ずかしいところなんか見せられないよね( ◜ᴗ◝)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。