さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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心が折れようとも、その声が届くなら────


◆憧れが火を灯す

ジュニア期はまだ充実していたと思う。

きっと全てが狂い始めたのはクラッシック期からだろう。

 

住んでいたところが火事になり、僕は顔に火傷を負った。

酷い火傷と目が失明しかけたため、三冠レースを棒に振った。

 

四年目、シニア期。

いくつかのレースに出たが、その中で一番騒がれたのが毎日王冠を勝ったことだった。

僕が毎日王冠で勝った相手に同期の三冠馬・ミスターシービーと日本ウマ娘で初めてジャパンカップを勝ったカツラギエースがいたものだから周りがうるさくて仕方なかった。

その毎日王冠のあとに僕は脚を剥離骨折し、一時休養。

病院のためなどに一度外を出歩けば声をかけられて、嫌に気を張る生活となってしまった。

 

五年目は新潟記念からの始動。

そこから短距離と長距離を走り、結果から天皇賞・春を目指すことになった。

天皇賞は有馬記念や宝塚記念、日本ダービーと並び、そこまでトゥインクルシリーズに興味がない人でも聞き覚えがあるレースだと思う。

そのレースを勝てば僕の強さの証明になるのではないか、とトレーナーと話し合って決めたのだ。

 

六年目、ダイヤモンドステークス。

ダイヤモンドステークスは3400mのレースだ。

この長さを走り切れば天皇賞・春も問題は無いだろうと。

しかし、また骨折。

今度は随分と酷い複雑骨折で、一時引退の話も出たほどだった。

そのあとも僕が現役を続けられていたのは一重に支えてくれた人たちの存在があったからだ。

 

七年目はダートを久しぶりに走った。

ジュニア期に何度かダートを走り、それなりの結果は出していたので問題はないだろうと出走。

複雑骨折した脚にはボルトを入れた。

その脚に負担がかかりにくいようにダートの方に出たというのもある。

だが、それでも僕の主戦場は芝だった。

 

八年目、僕のもう一方の脚に屈腱炎の予兆があるということは前もって知っていた。

そして、中京記念のあとに屈腱炎が発症。

また天皇賞・春に出られなかった僕は諦めかけていた。

トレーナーも僕を大事にならない内に引退させた方がいいのではないかと悩んでいるのが手に取るように分かった。

 

 

屈腱炎。

ウマ娘のガン。

普通ならば引退するものだ。

…いいんじゃないか?

G1は取れていないけれど、G2G3ならいくつか取ったじゃないか。

頑張ったよ。あんな骨折から戻ってきたし。

同期もみんないなくなってる。

"彼ら"ならともかく、こんな僕のことなんか誰も…、

 

「ダメです!」

 

肩を掴まれる。

息を詰めると目の前には真剣な顔をした奇特な後輩がいた。

 

「貴女は最強なんです!」

「私が、シルバーチャンプが憧れた貴女は、シルバーバレットは誰よりも強いんです!」

「それが証明できていないのに、辞めるなんてしないでください!!」

「貴女の強さを『まぐれ』だなんて言わせないでください!!」

 

涙を流して睨みつけてくる瞳。

呆然としながらも少しだけ僕の心に火がついた。

見てくれている。

僕のことを見てくれている。

僕が『最強』だって、それを証明しろと吠えている。

ならば、それほどまでにその証明を望んでいる"誰か"がいるのであれば…、

 

「…そうだね」

 

諦めるなんてできやしない。




僕:度重なる怪我に心が折れかけていた。
それに自分と対等に戦えるだろう相手がいなくなっていたのもあってモチベーションがほぼない状態だった。
この度、火をつけられ復活。

史実での甥っ子:シルバーチャンプ(ウマ娘のすがた)
僕の走る姿に憧れてトレセン学園へとやってきた。
この時はまだデビュー前。
僕が辞めるかもしれないという噂を聞き、直談判した。
この直談判は史実で出版されたとある僕に関する書物が元ネタ。
彼女の馬主があの日、僕の引退に異を唱えた彼である。
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