脚の治療をするにあたって、僕は療養施設へと送られた。
温泉やプールなどがあり、それらのところを行ったり来たりしながら僕の治療は続いていた。
暖かい風が吹き始めた春、ある馬に出会った。
『こんにちは』
『こんにちは』
その日、僕が出会ったのは見事な芦毛の馬であった。
左耳から白くなっている僕の毛並みとは違い、これぞ芦毛といえるような綺麗な毛並み。
僕より年下の彼はなんとG1ホースなのだという。
『キミ、綺麗な毛並みだな』
『…僕よりも綺麗な芦毛の馬がいたよ。貴方より少し大きい馬だった。…元気にしてるかな』
のんびりとした彼と僕はたびたび出会った。
彼はプールが苦手なようですぐに上がりたがっていたのをよく見たものだ。
いい食べっぷりを見て、僕の食事を譲ったのも一度や二度ではない。
『元気になってよかった』
『…ああ、先輩も元気で』
僕も彼もお互いの名前を知らない。
去っていく彼を眺める。
…G1ホースとはやはりああいったものなのだろうか。
僕もいつか、ああなれるだろうか。
*
脚に不調が出た僕は『りはびり』とやらのためにいつもと違う場所で過ごし始めていた。
その場所でよく顔を合わすようになったのが"先輩"だった。
"先輩"はそこにいた馬の中で一番年上であったのではないかと思われる。
大人しく、そして頭が良く、喧嘩している馬たちをよく諌めていた。
僕が"先輩"と親しくなったのはこの芦毛のお陰で。
会う度、『綺麗な葦毛だ』と褒められるものだからいつしかその褒め言葉がむず痒く感じてしまっていたのもさもありなんといえよう。
"先輩"はこの場所に来る前にも酷い怪我をしていたという。
今はそれとはまた別の怪我をして、復帰のためにここにいるのだと。
"先輩"と過ごす中で『"先輩"はきっと強いんだろうなぁ』と時折感じた。
"先輩"は自分のことを『どこにでもいる馬だよ』と謙遜していたが僕にとっては去年幾度か戦い、引退した【彼】を"先輩"に重ね合わせてしまう。
静かな目をした馬。
しかし、その体は無駄な肉が一切ないように見えて。
体は僕と同じくらい柔らかくて、とっても体が小さいのに僕よりも体力があって。
『お前は怖がらないんだな』と彼は言っていたが、彼のどこが怖いのだろう。
少し見た目が違うだけじゃないか。
僕は"先輩"の深深と刻まれた火傷跡が、笑う度に引き攣るのが痛そうに見えて、それでいて好きだった。
いつか、会えるだろうか。
いつか、一緒に走れるだろうか。
「さぁ、行こうか────オグリキャップ」
そんなことを思案しながら、後世『芦毛の怪物』となる一頭は馬運車へと乗り込むのだった。
僕:療養施設にて出会った某芦毛馬と仲良くなった。
どこの"怪物"なんだ…?
屈腱炎の良化にはもう少しかかるようだ。
オグリキャップ:療養施設にて僕と出会う。
僕の名前を終ぞ知ることはなかったが食事を譲ってくれたり、穏やかな僕に懐いていた。
僕の体格を見て某白い稲妻を想起したりしている。
僕といつか一緒に走れればいいなぁと思っている模様。