狂気に取り憑かれちゃった地主に逆らえたものは誰もいないんだ。
…それは地主に所有されていた牡馬であっても、ね。
そういったところでも()積み上げていくのは流石に業が深いっスよ!
それは美しい牝馬だった。
白馬のごとき芦毛の毛並みで生まれ落ちたその馬を、誰もが感嘆の吐息で眺めるのにそう時間はかからず。
そして、その馬は生まれた時から特別であった。
農家の家に生まれたがゆえ、本来なら農耕馬として生きるはずだった牝馬。
だがその体格は非常に華奢で。
とてもではないが、
がしかし、彼女はその欠点を帳消しにするほどの不思議な力を備えていた。
───ひとたび、あの牝馬がいななけば凶事が
起こる。
そう言われだしたのがいつのことだったか、定かではない。
ただひとつ確かなのは、彼女がいななけば鉄砲水や旱魃、その土地の有力者の死などが必ず起こり。
そんな彼女をある者はこう呼んだ。
神の御使いであると。
またある者は決して信じようとせず、ただ災いを呼ぶ化け物だと罵った。
どちらにせよ、彼女の存在はいつしか人々にとって畏怖の対象となった。
けれども、畏怖される彼女にも最愛の存在がいた。
それは自らの世話をしてくれる家の長男坊と、実の兄妹のように生きてきた牡馬だ。
彼らは彼女の良き理解者であり、家族であり、友人でもあった…のだが。
ある時、彼らの住む土地の地主が代替わりした。
それまではまぁ理性的であり善性を持った老年の男が地主であったのだが、代替わりしてからというもの、次第に何もかもが横暴になっていった。
新たな地主となった息子もまた、その息子の妻たちや元から居た家族もまた同様に。
するとやがて、村人たちへの搾取が始まった。
まるで奴隷でも扱うかのような態度をもって。
がしかし、最初はまだ良かったのだ。
彼らは村人達が税を納めさせさえすれば、満足していたから。
……しかし、その日常も長くは続かず。
欲に溺れたのか、今となっては知る由もないが。
搾取の割合は段々と、ドンドンと、…後の世に残されるほどに大きくなっていった。
そうなってはもちろん、村の人々に応じられる余裕なぞ。
それは、…美しい牝馬がいた家も例外ではなく。
───金の代わりに、あの牝馬を寄越せ。
下卑た笑みが牝馬に向けられる。
かの牝馬の不思議な力は、地主一族の方にもそれはそれはよく伝わっていた。
だからこそ、彼らはその力を利用しようと考えたのか?
いいや、違う。
───いやはや、…なんとも美しい馬だ。
下卑てはいても、その目はひどく純粋であった。
純粋な
牝馬そのものに惚れ込んだ人間にはもう、牝馬の持つ不思議な力など二の次で。
嫌がるところを、無理矢理引き摺られていく牝馬。
元の面立ちが判別できぬほど殴られた長男坊。
そして、
牝馬を取り戻そうとして、…撃ち█された牡馬。
真白の雪の中に、牡馬から溢れ出した赤が広がる。
牝馬はそれを、ただ見やることしか…。
牝馬:
美しき芦毛の牝馬。
とある農家に生まれた小柄な牝馬。
普段は「
でも、何だか不思議な力を持っていたらしい。
自分を世話してくれる長男坊と一緒に育ってきた牡馬くんが大好き
がある日、知らない人に引き摺られて、そして…。
ちな夭折する間際にいっぱいいなないた。
さて、彼女の不思議な力のトリガーって…何でしたかね?
長男坊:
とある農家の長男坊。
牝馬のことを愛してる。
それはそれとして牡馬とは秘密裏に牝馬を取り合うライバルだった。
めちゃくちゃ牝馬を手に塩をかけて育て、周りから感嘆の吐息を吐かれる毎に後方生産者面をしていたが…?
たぶん、牝馬の夭折を知ると…。
牡馬:
栗毛の牡馬。
とある農家に生まれた、牝馬の幼なじみ。
実の兄妹のように育っては、世話してくれる長男坊とバレぬように牝馬を取り合っていた。
牝馬がどんな力を持っていようが牝馬は牝馬だからと受け入れており、いつかは牝馬と子を成す…はずだった。
牝馬のことを、何よりも愛していた。
それ故に…。
地主さん家:
憎まれっ子世に憚る。
…でも、そうなるように調整されてそう。
生かさず殺さず、じっくりとするために。ね?
なお宛てがわれた牡馬たちはみんな牝馬に優しく、支えて、尽くしてくれた模様。
それでも、牝馬が見ているのは…。
まぁ、そのことに対しては宛てがわれた牡馬たちも仕方のないことだ、と受け入れているんだ。…受け入れているフリ、なんだ。