さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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たぶんこの眼は【白の一族】だったら全員持ってそう。



"魔性"の眼

『……』

 

フラフラと。

おぼつかない足取りで去っていった見知らぬ男とすれ違って、シロガネハイセイコは顔を顰めた。

なにせ、いま自分が歩いている廊下の先にはひとつしか部屋がない。

そしてその部屋の主は、

 

「…父さん」

「……あれ、ハイセイコ?」

 

コツコツとノックして入室するとそこには革張りの椅子に座る小柄な人影がひとり。

彼は、息子が突然やってきても驚く素振りもなく穏やかな笑みを浮かべて出迎えた。

ハイセイコは室内を見回す。

そこは広くも狭くもない、よく見慣れた一室だった。

本棚には分厚い書物が詰まるだけ詰まっており、中には床置きにされているものもある。

それでも本の表紙の上に埃がひとつも積もっていないのは、定期的に掃除しているからだろう。

この部屋にあるものといえばそれだけで、窓すらもカーテンによって閉ざされている。

そんな。

そんな部屋の主が、シロガネハイセイコの父であるシルバーバレットであった。

 

「…それで、なんの用かな?」

 

ゆるりと眦をゆるめた双眸が立ったままのハイセイコを捉える。

それは親としてではなく、家を治める長としての眼差しだ。

彼が長を務めるこの家では、彼の言葉には必ず従うべしという不文律がある。

つまりこの問い掛けを無視するということは不文律を破るということを意味していた。

だから、答えないわけにはいかない。

ので、シロガネハイセイコは言葉を紡ぐ。

 

「……他人を誑かすのも程々にしてください」

「おいおい…、誑かすなんてひどい言い草だなぁ」

「あれを『誑かす』以外に、何と言うので?」

 

思い出すのは、先程すれ違った見知らぬ男。

垣間見たのは一瞬。

だが、その一瞬でよかった。

 

「まるで、夢でも見せられたかのような目をしてましたよ。あの御方」

「へぇ、」

 

シルバーバレットの笑みが深くなる。

シロガネハイセイコはその表情を見て確信した。

あのような状態になっている男はもう()()()元には戻らないだろうと。

そうして、自分はそれをやった張本人を前にしに来たのだ。

まったく腹立たしいこと極まりないが、これも長兄としての仕事である。

 

「…もう。深化した()()()()()をどうにかするのは、僕なんですからね?御父様」

「ハイハイ、分かっているとも」

 

わざとらしく肩をすくめる父を半目で睨む。

どうにも反省の色が見られなかったが、これ以上文句を言う気力は今のシロガネハイセイコにはなかった。し、

 

「…………」

 

それよりも。

どうしても、気に掛かってしまうことがあった。

 

「どうかしたかい?」

「いえ、」

 

ふと視線を落とした先にあったものは、机に置かれた一冊の書物。

表紙は擦り切れていて相当年季が入っていることが窺えた。

パラリと開いたページは触れただけで風化しそうなものだ。

 

「…あぁ、これかい?」

 

シルバーバレットの指がつい、と書物に触れる。

愛おしそうに細められた瞳はしかしすぐに逸らされて、遠い記憶を見るような顔つきになる。

それはどこか寂しげな横顔だった。

けれど、

 

「キミが知る必要はない!…かな?」

 

そう、はぐらかされては…。

 

「…はい、分かりました」





【銀色のアイドル】:
シロガネハイセイコ。シロガネ家長男。
父であるシルバーバレットの世話を担っている。し、場合によっては護衛じみたこともする。
最近の悩み…というか恒常的な悩みなのだが、は『父が他人を惹き付け過ぎること』。
でも何だかんだ言いながら父の言うことを聞く良い子である。

僕:
シルバーバレット。
その気になれば思考誘導くらいはできる"魔性"。
ちょっと他人を使って'ある書物'を見つけてきてもらった。


'ある書物':
大正中期~末期までの日記とも雑記とも取れるもの。
ある不思議な力を持っていた牝バ"シロメ"(元は白牝が転じたものか?)についてのことが事細かに記されている。が読んだらSAN値が削れる代物らしい。
……惚れ込むって、怖いネ。
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