さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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───彼は、終わらせてほしかった。



いびつな幕引き

ありがちな宿題だ。

 

「ふぅん…高齢者インタビュー、ねぇ。うん、僕でいいのなら力になるよ」

 

僕の家はお父さんとお母さんだけなので公園でよく会う"シロガネさん"に話を聞くことにした。

ベンチに座って遊ぶ子どもたちを毎日ニコニコして見ている"シロガネさん"。

僕は"シロガネさん"の隣に座った。

彼は不思議そうに僕を見つめたあと、ニコリと笑ってくれる。

その笑顔はまるで午後の太陽みたいに明るくて暖かいものだった。

彼の隣はすごく落ち着くし、居心地が良かった。

 

「…それで?どんなことが聞きたいんだい?」

「えっと…」

 

どうしよう、何から聞こうか。

迷っているうちに彼がまたクスッと笑い、優しく頭を撫でてくれる。

子ども扱いされてるなぁって思ったけど悪い気はしなかった。

むしろ安心する。

そうして僕は彼に促されるまま、ゆっくりと口を開いた。

 

*

 

「…う〜ん、それで役に立つかなぁ?」

「たぶんフツーの高齢者じゃ話してくれない話だとは思う」

「そっかぁ」

 

"シロガネさん"の話はとても面白かった。

前々から"シロガネさん"がウマだということは分かっていたがまさか競走バだったなんて!

"シロガネさん"は『走ってたのはもうずっと前だからね〜』とほけほけ笑ってはいたが。

そんな感じでいろんな話を聞いた。

好きな食べ物や嫌いなもの。

競走バだったころの思い出。

家族のこと。

どれもこれも興味深い内容ばかりだった。

特に興味深かったのは、どうして引退したのかということ。

彼曰く、引退を決めた理由は怪我ではないらしい。

 

「あぁ、もういいなぁ…って思ったんだ」

「…も(・)う(・)い(・)い(・)?」

「うん」

 

そう言った"シロガネさん"の目は遠くを見ていた。

なんだかすごく寂しそうな目をしている。

いつも優しい顔しか見たことがなかったからこんな表情を見たのははじめてだった。

少し驚いてしまったけれど、「シロガネさん?」とすぐ声をかける。

すると彼はハッとしたような顔をしたあと、すぐに元の顔に戻っていた。

やっぱり見間違いだったかもしれない。とは思いつつも…。

 

「…キミも縁があれば海外に行ってみるといい。面白いと思うよ?」

 

*

 

も(・)う(・)い(・)い(・)。

なんて感じたのは競技者として年老いていたある日だった。

自分が、自分という存在がありふれた物語のように終われる存在ではないと気づいてしまった日に。

 

『…僕は、トゥインクルシリーズから引退します』

 

僕は僕で幕を引いた。

誰も倒せないラ(・)ス(・)ボ(・)ス(・)なんて、いても面白くないでしょう?

 

「とか、…ふふ、冗談ですとも」





"シロガネさん":
そう呼ばれているだけのおじいちゃん。
元は競走バだった。
結構長きに渡り走っていたが辞めた理由は身体機能が落ちたからではないとのこと。

僕の前に、英雄(ヒーロー)は現れなかった。
…なら、自分で幕を引くしかないでしょう?
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