さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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ありふれた、どこにでもいる"きょうだい"の話…でした。



『お前のせいだ』と嗤うもできず

"おれ"はただの、どこにでもいる馬だった。

口調こそ荒いが子どもである"おれ"のことをよく考えてくれる母と無口ながらやさしい兄。

 

『にいちゃ、にいちゃ』

『…どうした』

 

兄はいつも一頭だけで静かにいた。

だが幼い"おれ"が兄を慕い、近づけばやさしく応答を返してくれて。

兄のその身体にもたれて眠ったこともあった。

そんな時、決まって母はやさしく微笑んでいたように思う。

 

そして。

"おれ"と年子であった兄は先に、きゅーしゃ(厩舎)という別の場所に行き、きょーそーば(競走馬)というのになって。

"おれ"もそうなるのだと母に言われては"おれ"も兄と同じきゅーしゃ(厩舎)に行けるだろうかと思ったものだった。が、

 

『にい、ちゃ…?』

 

久しく会っていなかった兄と再会して、"おれ"の頭に真っ先に浮かんだのは『これが本当に兄なのか』という驚愕であり。

何故なら兄の顔には、

 

『…ごめんな、見苦しくて』

 

大きな、大きな火傷跡。

 

 

それから。

"おれ"はしんばせん(新馬戦)というものに勝ち、兄に祝福され。

やよいしょう(弥生賞)という、ヤツに出た。

そこで"おれ"は、

 

『なぁなぁ、』

『…うん?』

 

額に三日月みたいな模様が入っている馬に出会う。

特段話す内容もなかったのだが、何故か声をかけてしまって。

それで最終的にはその馬に"おれ"は負けてしまったのだけど。

 

『すごいなぁ、アイツ…』

 

 

ここまでが、"おれ"の生涯にとって()()といえる記憶だ。

 

『ははは、』

 

あのあと、"おれ"はよく話しかけてくる生き物(にんげん)がいうには「鳴かず飛ばず」というものになって。

兄から離され(地方入りし)て頑張ったけど、()()ってところで脚が止まってしまって。

かつ(勝つ)ってことができないまま、走るのを辞め(引退し)た。

 

『ははははは、』

 

そこから母がいるところに戻って、こーろーば(功労馬)ってヤツになって。

ちょこちょこ仕事をしながら代わり映えのない生活をしていたある日、

 

『シルバーバレットの代替として』

 

"おれ"は、また別の場所に移った。

 

 

 

みんな、"おれ"を█████████(おれ)と、呼んでくれない。

いつだって、みんなが"おれ"を、───兄の名で呼ぶ。

 

『はは、ははは…』

『…███』

 

ただ、笑うしかない"おれ"に声がかかる。

でも、

 

(もう、聞こえないんだよ…)

 

ごめんな。

そう、心の中でつぶやいて。

"おれ"は、目の前にいる額の三日月模様が特徴的なヤツに…。

 

『あはは、』





"おれ":
シルバーウィーヴ(Silver Weave)。誰が呼んだか【紡ぐ者】。
1981年-1995年(14歳没)。
年子の全兄(火傷跡持ち)がいる父ヒカルイマイの芦毛牡馬。
新馬戦は兄と同じく楽勝したが、その後から伸び悩み遂には引退。
騎手であった人々がいうには『末脚を使おうとすると不意にピタッと止まってしまう。まるで脚を()()かのように』とのこと。
引退後は生産牧場である土地で、馬主の尽力もあり功労馬兼プライベート種牡馬となっていたがある時(1992年)を境にある場所へ移動する。
その場所にてどこかれで出会ったことのある、額の三日月模様が特徴的な馬とよく過ごすようになるが…。

年子の全兄を慕い尊敬しており、全兄ほどではないが利口であった。
そのため自分が全兄の代替であることに、もう全兄が()()()()()()ことに気がついており、気づいた結果…。

あは、あはは、あははは…。

がしかし。
これでも移動した後の産駒に5頭程度はG1勝利馬がいるとか。
さすがですね(色々な意味で)(ニッコリ)。


三日月模様が特徴的な馬:
"おれ"と同期で、"おれ"とは弥生賞にて対戦経験あり。
若き日の自分に物怖じせず話しかけてくれた"おれ"のことをずっと覚えていた。
が、再会した"おれ"が徐々に…していく姿を近くで見続けては心を痛めるように。
実は内と外で性格が違うとか…?("おれ"の前ではいつもやさしいケド)


生存‪√‬だったら、穏やかに暮らせたのにね。
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