さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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黄金世代から見た【銀色の王者】の話。



銀の王者は笑わない

僕がそのウマを、シルバーチャンプをはじめて認識したのは昼寝場所を探していた折だった。

 

「───────」

 

ただ、一瞬。

ほんの、一瞬。

チラリと、汗に濡れた髪から覗いた眼を見ただけだった。

なのに。

 

()()()()()、と思った。

 

まるで、牙を剥いた獣の顎のような。

そんな視線が僕を捉えて放さなかったのだ。

あれは、一体なんなのだろう?

ひどく落ち着かない気分。

いつものような飄々とした笑みも浮かべられないくらいに。

 

それから。

僕はあのウマのことが気になって仕方がなかった。

そして、それは今も変わらない。

でも、あのウマがどこそこにいると知っていても会いに行かなかったし、話しかけることもなかった。

そうしてしまえば、この胸の奥で燻る感情の正体が何なのか理解してしまう気がしていたからだ。

その"理解"が、僕は……。

 

()()()…なんてね?にゃはは〜」

 

──その眼は、すべてをぶち壊す"ナニカ"を持っていた。

 

 

俺がそのウマを認識したのはクラス分けが発表された時。

まだ顔すら知らない相手に俺は関心を寄せていた。

だって、そのウマはとても()()()()だったから。

あのウマに列なる血筋の生まれだと、誰もがささやいていたから。

 

でも、違った。

クラスメイトとして顔を合わせたそのウマの瞳には光がなく、ただ虚空を見つめているだけ。

誰とも関わろうとせず、誰にも興味がないといった様子に取り繕って、キツい言葉を使って、自分を守っているかのような。

それに、そのウマからはどこか危うさを感じた。

まるで、いつか壊れてしまいそうなほど脆く見えて。

なのに。

その"脆さ"に目を惹かれて。

…………ああ、もう!自分で自分がわからない!!

どうしてこんなにも心乱されるんだ!?

そんなことよりも、とにかく今はトレーニングに集中しないと…。

 

───王の審美眼が見抜いたのは、隠された脆さ。

 

 

僕から見たキミはお人好しだった。

「よォ、大丈夫か?」なんて言って。

「困った時はお互い様だ」なんて言って。

病弱な僕に嫌な顔ひとつせず「無理すんな」と言っては手を差し伸べるような。

……本当に優しいヒトなんだなって思った。今でも思う。

だけど、それと同時に疑問を抱いた。

どうしてそこまでするのか?と。

だって、どう考えてもおかしいじゃないか。

僕のことをよく知りもしないだろうに。

それどころか、まともに話したことさえなかったはずなのに。

 

「なれるよ、お前なら」

 

どうして、諦めたよう(そん)な顔するの?

 

───それは、投影だったのか?

 

「引退式なんざ、しないでいいって言ったのによ」

 

かつりかつりと松葉杖をついて、キミは呆れたような笑みを見せ。

 

「…G1勝たずに、引退すんのに」

 

あの激走の代償が嫌に目についた。

キミに生来の脚の弱さがあったと知ったのはずいぶん後のことだったけれど。

それでも、キミがこれまでどれほど、どれだけ頑張っていたかを知っていたからこそ、その無念さがより痛々しく感じられた。

でも僕にそれを告げる勇気はないし、権利も、なかった。

 

「…じゃ、俺の代わりにリベンジしてくれや──日本総大将?」

 

───それは、『憧れ』のような。

 

 

僕はあなたのことが嫌いだった。

その気になれば僕ら全員を倒せる実力があるクセにそれをひた隠しにして。

粗野で粗雑なフリをして周りすべてを遠ざける。

誰も見ないままに目を塞いで、耳もふさぐように殻の中に閉じこもって。

 

───あなたは、何がしたいんですか?

 

そう問いただしたい衝動を抑えるのに、必死だった。

だって、そうでしょう?

そうやって、自分ひとりだけで抱え込んでしまう姿を見ると、どうしても苛立ちを抑えきれなくて。

あなたの近くにはあなたの言うことをバカにする人なんていないのに、なぜそうまでして孤独であろうとするんですか?

もっと頼ってくれてもいいじゃないですか?

僕は……。

いえ、僕たちは……っ!

あなたの力に、なりたかった……ッ。

 

「…体には気をつけろよ。なァ、【不死鳥】ドノ?」

 

───切っても切れぬ『後悔』を、悔やんでも後の祭り。





【銀色の王者】:
シルバーチャンプ。
現役時代は基本危うかった感じ。
それを必死に取り繕った結果が気性難だったのかもしれない。
自分の弱いところを誰にも見られたくなくて、自分は大丈夫だと強がっていた。
だって自分は───"あのウマ"に列なる存在なのだから。
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