さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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世界を変えるのに、3分もいらない。

【追記】
誤字報告ありがとうございます。


ひとつの夢の結実

スタイリッシュセンチュリーが放馬し、馬体検査が行われていたが、問題はなかったようでゲートに収まった。

 

ガチャン、とゲートが開く。

 

一瞬でゲートから飛び出しながら、今までで一番集中していたなと思った。

走りながらゲートに頭をぶつけなくてよかったと安堵の息をつく。

後ろからは誰も来る気配がない。

 

 

『スタートしました!

シルバーバレット、それに遅れてオサイチジョージが好スタートを切りました。

おっと!?シルバーバレットが凄まじい勢いでハナを切ります!

これは後半持つのでしょうか!?』

 

 

いつも以上の速度でシルバーバレットがゲートを飛び出した。

凄まじい勢いでハナを切り、引きちぎっていく。

相も変わらずだなと苦笑しつつ、後方に向けてやれるものならやってみろと内心思う。

 

シルバーバレットの調子は今まで騎乗してきた中で一番いいとすら思える。

テキだって「二度とこんな馬に出会えないだろう」とまだ勝ってないのに泣いてたぐらいだ。

 

踊るように突き進む。

風を切り裂いて進んでいくことに僕も彼も興奮を隠しきれなかった。

 

 

『各馬第3コーナーへと向かいます。

先頭は、先頭はシルバーバレットのまま!

15馬身ほどリードを広げ、バテる気配は未だありません。

このまま行ってしまうのか!?』

 

 

歓声が聞こえる。

聞こえにくい僕の耳にも聞こえるほどの大歓声。

その声が心地いいと感じた。

もっと欲しいと渇望する。

そして、

 

(嗚呼、ずるい、ずるい…!)

 

今までこの歓声を聞いてきたであろう奴らに嫉妬した。

こんなに楽しいものを、こんなに嬉しいものを、こんなに高ぶらせるものを!

ここまで手に入れることができなかった自分に心底イラついた。

 

歓声が聞こえる。

どこまでも自分を望む声が聞こえる。

自分に、期待する声が聞こえる。

 

ならば、

 

(期待に応えなくっちゃなァ…!)

 

 

その瞬間、ドンッと大地が爆ぜた。

グン、とシルバーバレットの体が低く、前傾姿勢になる。

そして、

 

「うお…っ!?」

 

次の瞬間、僕は力いっぱい掴まないと振り落とされそうな速さの中にいた。

体勢を崩しかけながらしがみつくしかなかった。

鞭を打つなんてとんでもない。

鞭を打とうとした瞬間、振り落とされる未来が確定しているのだから。

 

 

『たった一頭、第4コーナーを越えてやって来る!

日本のシルバーバレットだ!

後ろは、後ろはもう追うことしか許されない!

ッ!?シルバーバレットが加速した!

まだ脚があるのか!こんな馬がいていいのかァっ!?』

 

 

貫け。

後方など気にする必要は無い。

気を逸らすな。(ブレるな)

自分が狙う先は、─────勝利ただひとつ。

 

 

 

『遅れてきた怪物が、戦い続けた古強者が今!ターフを支配する!

老いぼれと侮ってくれるな!シルバーバレット逃げ切った!』

 

『…こ、これはとんでもないレコードです!

前年のホーリックスの記録を大きく超えた、2分、2分19秒0!』

 

『今日この日は、この男たちのためにあった!

今はただ!この遅れてきた男たちに喝采を!

シルバーバレット、白峰透騎手、完全なる勝利です!』

 




僕:訳分からんワールドレコードでジャパンカップを制しちまったウッマ。
後世、現実で領域に入ってた馬と称される。
これにて最軽量(370kg台後半)+最高齢(当時11歳、現在表記では10歳)+芝2400m世界最速馬となった。
しかも、サラ系のウッマである。
…観客も脳とか目をやられたと思うけど、一番やられてるのはこのウッマの生産牧場の方々なんだよなぁ。
なお今回出したレコードにとある問題が…?

騎手くん:本名白峰透。お人好しそうなおいちゃん。
この時点でだいぶ歳がいっている騎手。今でいう5爺らへん。
今までもこれからも自分が乗った馬の中で最強馬はシルバーバレットと言ってはばからなくなる。(それはそう)

ダービーを取りたいと願ったこともあった。
だけど今の夢は、…この馬が最強だと示すことだった。
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