勘のいい奴には察されてそう。
シルバープレアーというウマはその名の通り、シルバーコレクターとして有名であった。
あの【英雄】と同世代で覇を競り合いながら芝でもダートでも、どの距離でも出走することになったのなら絶対に2着以内に入り込んでくる傑物…。
それがシルバープレアー。
けれど。
「えっとね、このコースはこう走ったらスタミナを温存できて…」
「そっか、なら一緒にトレーニングする?」
シルバープレアーはとてもやさしく、また少しばかり歳が離れた自分たちでも気軽に話しかけることができるくらい気さくなウマでもあったのだ。
だからなのか、シルバープレアーの傍にはいつも誰かがいた。
走りにアドバイスを求める者だったり、はたまた単純にシルバープレアーを慕って話しかけにくる者もいた。
がしかし。
本当の意味でシルバープレアーの目に映っていた存在は、そういなかったのではないかと思う。
いつもと変わらないアルカイックスマイルで応対しては、可もなく不可もなくの当たり障りない会話を繰り広げる。
気づけば、そう、気づけば話の主導権を握られていて……いつの間にかペースに乗せられ、話を終わらせられていた。
…そんな感覚に陥ることもしばしばあった。
そしてそのたびに自分は思ったものだ───『あぁ、やっぱり』と。
鏡写しのように相手から与えられる好意を返すだけ。
等価交換。
きっと、快くトレーニングに付き合ってくれるのもそうすればそうする分だけシルバープレアーの養分になるからだろう。
自分からは決して動かず、相手が近づくのを待つ。
ただただ待つだけの生き方。
まるで蜘蛛のようだと思った。
いや、実際にそうなのかもしれない。
労力を蓄える。
それは、大きな大きな"獲物"を逃がさぬように喰らうため。
だから、動かない。
だから、何もしない。
だからこそ、シルバープレアーは常に微笑んでいたのだろう。
舐めさせて、いたのだろう。
自分は取るに足らない存在だ、と印象付けて。
油断してきた相手を貪り喰らう。
一片の無駄なく、綺麗に。
そして。
───待って、いるのだろう。
お前を喰うに相応しい"怪物"になったと、お前に倒されるに相応しい"怪物"になったと。
いもしない、
いつか自分を食い破ってくれるような英雄が現れることを夢見て、待ち続けているに違いない。
それを思考した、自分は思うのだ。
───なんて哀れなんだろうか、と。
ついで。
それはなんと、
───競走バ、冥利に尽きるだろうか、と。
そこまでして待たれる件の相手を。
羨ましく、思ってしまったのだった。
【銀の祈り】:
シルバープレアー。
手ぐすね引いて、待ってるよ。
喰って肥えて、キミが倒すに相応しい"敵"に。
キミにお似合いの英雄譚の、その宿敵に。
成りたくて、成りたかった、から。
───ここまでしたのに、ねぇ?