さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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思えば、自分はあの日に。



ゲシュタルト/あなたのための"存在証明"

なんて、どうしようもない夢だろう。

そう思いながら明晰夢を見る。

夢の中の世界はもう去って久しい場所で。

その世界で自分はもう会うこともできない相手と、ただふたり、走っている。

 

いつも通り自分を追ってくる足音に高揚と虚しさという相反する感情を抱き。

そして──。

 

「……」

 

目が覚めた。

まだ暗い部屋の中で天井を見上げていると、隣から小さな寝息が聞こえてくる。

そちらを見れば、そこには自分の腕にしがみつくようにして眠っている子ども-シルバアウトレイジの姿があった。

あどけない顔で眠る子どもの髪をそっと撫で。

 

(…………)

 

撫でてから、また目を閉じる。

もう一度、先程の夢を見直すために。

 

 

自分には勿体ないくらい強い友人がいた。

自身の祖父と同じくらい、トゥインクルシリーズに興味のない人たちまでもに名前が知れ渡るくらい強い友人が。

そんな友人と自分はよく一緒にトレーニングをしたものだった。

 

友人はとにかく強かった。

どんなレースでも一着を取り続けたし、模擬レースでだって負けなしだった。

だから自分も友人と一緒にいる時は全力を出して走ったものだ。

だが、ある時を境にして友人の走る姿を見ることはなくなり。

 

…それでも、自分は走り続けていた。

友人のことを、みんなに忘れさせたくなかったから。

自分に勝った友人は凄いんだということを、証明したかったから。

ただそれだけのために走っていたのだが……いつの間にか、それは。

 

走って、走って、走って。

友人の影を自身に這わせて。

自分がいるから、まだ友人もここにいるのだ、と。

そう思ってもらえるように頑張っていた。

……だけど、それも長く続かなかった。

 

───あ、いないんだ。

 

ふと、気がついてしまったような。

ずっと、見て見ぬふりをしていたことに今更目を向けてしまったがごとく。

その"喪失"に、穴を開けられてしまった。

ぽっかりと空いた穴からは何か大切なものが零れ落ちていくようで。

それを埋めるための穴をも、自分で開けてしまっているようで。

 

気がついたら、自分がどこに立っているのかさえ分からなくなって。

どこに向かって走ればいいのかも分からないままに、それでも足だけは動かし続けて。

やがて、友人といた頃の自分が、どんな存在だったのかすら覚束なくなり。

必死に必死に取り繕っては、自分の形を押し固めた。

 

友人を、忘れさせないと誓ったのは自分だ。

けれど、その当バたる自分が自分を忘れてしまっては…。

 

「本末、転倒だなぁ…」

 

救いようもない、と力なく笑うしか。





───誰だったっけ?

誰か:
友人のことをみんなに忘れてもらいたくないから、ずっと走り続けていたら自分って何?状態へと陥った。
"あのころ"の友人に捕らわれたままの状況。
競走の世界から離れても、夢の中で友人の姿を見る。
見ては、もう遠に離れてしまった"あのころ"の友人を夢見ている。
逃げられない。し、また、逃げるつもりもない。


どうかココロを軋ませて。
"あのころ"の、僕をかえして。
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