さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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気迫一本でデバフを撒き散らしていく系の御方。



僕らに『星』は見えなかった

それは、ゾッとするぐらい()()ウマだった。

壊れることすら厭わないような、そんな狂気で総てをぶち抜いていった"影"だった。

 

誰も彼もが、その痩せ細った"影"のことなぞ眼中になく。

ただただ門の先を、栄光を目指し、駆けていたのだ――。

 

「……はぁっ!?」

 

だが。

一陣の風が、…いや風と呼ぶのもおこがましいほどの暴風が吹き荒れた瞬間に。

……その"影"の姿は消え失せてしまった。

まるで最初から何もなかったかのように。

跡形もなく、……消失したのだ。

 

(なんだよあれ……。)

 

あんなもの、見たことも聞いたこともない。

一体何が起きたのか分からないほどの混乱に見舞われては走りがぐちゃりと平常を無くす。

が、しかし。

それは俺だけのことではないようで。

影"が通り抜けていった軌跡を描いて、そこにいた者々すべての走りが恐慌に()()()

 

「くそ!なんだってんだ!」

「ひゅっ、」

「うわあああっ!?!?」

 

先にいた者が我先にと門の向こう側へ駆けていく。

そして、それを追いかけるようにして後続たちが次々と押し寄せてきた。

混乱に次ぐ、大混乱。

誰もが、自分のことで精一杯だ。

精一杯で、何とか走り終えたあと。

 

「ほら、チャンプ。…戻ろう」

「……、」

 

"影"の主が、泣いていた。

本当に、崩れ落ちそうな弱々しい体で共に遠征してきていたという同胞に支えられながら、覚束無い足取りで去っていく。

まだ色素が濃いめの芦毛の髪を揺らし、その隙間から黒黒とした隈を晒し。

それでもなお、爛々と輝く瞳だけはどこかを見遣りながら。

 

「………………」

 

俺はそれを呆然と見つめることしかできなかった。

あまりにも衝撃的すぎて。

あまりに異質過ぎて。

何か声をかけるなんてことは思いつきすらしなかった。

結局、そのまま立ち尽くしては心配そうに声をかけてきた己のトレーナーに従い。

 

かのウマの名を聞けぬまま。

その年の凱旋門賞は、終わりを告げ…。

 

 

まるで、『ヘルハウンド』のようだった。

そうと思ってしまうぐらいの、気迫があった。

あともう少し、距離があったなら競り負けていただろうと思うほどの。

 

名も知らぬ、ウマだった。

いや、名前だけは死ぬほど聞かされていた。

"あの怪物"の血縁だと、騒ぎ立てる人々のざわめきを。

この大レースに見合わない、あまりにも痩せ細った体に、落胆するざわめきも。

けれど。

 

『────ッ!?』

 

ずっと先を見据えた眼であった。

お前のことなぞ眼中にないと、言外に示したものだった。

自分の目に映るモノは、お前よりずっと()()と。

 

『あ、ぁ…、』

 

その泣き顔に、突きつけられたのだ。





【銀色の王者】:
シルバーチャンプ。
『星』を見つけちゃったからね、仕方ないね。

その他のみなさん:
なんやあの影ェ?!(恐慌)(かかり気味&持久力大幅減)
何か埒外のよく分からないモノとかち合ってしまった被害者。
最終直線で門に位置が近ければ近かったほど影響を受けた模様。

中でも1着だったウマは【銀色の王者】が門のずっとずっと先にいる『星』を視ている姿を間近で見てしまったので…かわいそ。
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