さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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常識もルールもこの脚で覆したウッマになったね……。


タイム・オーヴァーラン

1990年ジャパンカップは見事シルバーバレットが制した。

だがシルバーバレットの出したタイムが問題だった。

 

2分19秒0。

前年のホーリックスが出したワールドレコードを大きく上回ったタイム。

そして2着馬であるベタールースンアップのタイムが…2分23秒2。

4.2秒の差。

 

この話に繋がるのがタイムオーバー制度だ。

中央競馬には1973年から「調教不十分な馬の出走を防止」し「立て直すための調整期間を与える」という目的でサラブレッド系の平地競走を対象に実施されている制度がある。

 

その規定に芝のレースにおいて1着馬の走破タイムから4秒超過した際にはタイムオーバーとなる、というものがある。

結果として、タイムオーバーとなった馬には一律1か月の出走停止処分が科されてしまう。

 

この規定に則ると、あのジャパンカップを走っていたシルバーバレット以外の馬の全てに規定が適用されてしまうことになる。

 

あのレースを走っていたのがただ一介の日本馬だけであったのならそのままだったであろう。

だがあのレースには海外馬がいた。

そして何より()()オグリキャップがいた。

 

オグリキャップの熱狂は今現在でもその名を聞かない日はないほどだ。

そんな馬が有馬記念に出られないなんて。

このまま引退すべきという声や「今すぐ引退させろ」という脅迫状が届いたということも一応あるが、多くの民衆が望んでいるのはオグリキャップが走りきった結果、引退することなのである。

いくら輝きが失ったヒーローであろうとも、最後でいいからその勇姿を見たいとダービー時の署名活動も比にならないほどの声が上がっていると聞く。

競馬を押し上げたヒーローの最後がこのままでは駄目だという声が上がっているのだ。

 

 

そのまた一方、中央競馬もタイムオーバー制度に関して侃侃諤諤の議論を交わしていた。

今までの規定に則り、タイムオーバーを敢行すべきだという声はもちろん上がった。

 

海外馬に関しては何とかそれぞれの国の規定に則って対処するということに決まった。

 

問題は日本馬をどうするか。

その競走が普通のレースであったなら彼らもタイムオーバーを敢行したであろう。

その議論が終わらない理由はやはりオグリキャップにあった。

 

テンポイントの顕彰馬選出の際も多くの抗議が寄せられたが、オグリキャップがタイムオーバー制度のために有馬記念に出られないとなればそれ以上の抗議が寄せられるだろう。

それほどまでにオグリキャップの熱狂は凄まじかったのだ。

 

 

議論の結果、出された発表はこのようなものである。

 

国際招待競走、コースレコードタイムが更新された競走、及び障害飛越の失敗による影響が大きい障害競走にはタイムオーバーが適用されないこと。

 

そして、芝コースの従来のタイムオーバーは4秒であったが砂、ダートコースと同じく5()()と変更すること。

 

 

初めはその変更に抗議があったが、次の言葉で抗議は徐々に収まっていった。

 

「皆さまはマルゼンスキーという競走馬を覚えているでしょうか。

その馬はタイムオーバーを恐れられた結果、十分な実力が出せなかった一頭の競走馬でした。

 

彼は海外からの持込馬でした。

あの日の日本競馬は彼に敵いませんでした。

彼に勝てる馬など日本競馬界に現れないのではないかとすら私たちは思っていました。

その中で、その中で今回現れたのがシルバーバレットです。

あのジャパンカップで全てを置き去りにした彼に私たちは夢を見ました!

……そしてこう思ったのです。

 

いつか現れるだろう彼らのような競走馬がこんな規則で才能を潰されていいものか、と。

 

私たちは未来を見ます。

彼らのような競走馬が日本の競馬に身近になることを!

日本の競馬が世界に並び立つようになることを!

 

…そのために、このたびタイムオーバー制度を変更させていただきました」

 

その日、ひとつの規則が変わった。

そして、

 

(やっとゆっくり過ごせるかな〜)

 

そのことをシルバーバレット(当の本馬)は知る由もないのだった。




僕:知らん間にタイムオーバー制度を変更させちゃったウッマ。
2000年代に距離別でタイムオーバーが規定されるまで、この世界軸ではタイムオーバーは芝ダート含めて一律5秒となった。

オグリキャップ:伝説のアイドルホース。
その人気がタイムオーバー制度の変更の一因となったという話が残っており、オグリ伝説の1ページに刻まれたエピソードとなった。
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