羨ましい。
「随分と、走り方を変えたね」
乱雑に汗を拭う自分に、そう声をかけてきた同い歳の甥にバレットシンボリは一瞥だけを返した。
どうにも、この同い歳の甥-シルバープレアーとプライドシンボリはあまりウマが合わなかった。
かけられる期待は同じように重いものであるくせに、その方向性が違いすぎたのだ。
ただ、かの【皇帝】の跡継ぎになれるかどうかで見られるバレットシンボリと、どこかその戦績を"とあるウマ"の有り得たかもしれないIFとして捉えられ、2位続きのままに『次こそは!』と応援を受けるシルバープレアーでは…。
(……まぁ、だからといって)
それでも、最低限の会話くらいはする程度の仲はある。
そんな甥からの言葉に対し、バレットシンボリは「別に」とだけ返す。
「ただ、もう負けられないだけだ」
「そう」
「…お前と違って」
「…言うねぇ」
たぶん。
あまりにも様変わりした自分の走りをわざわざ心配しにきてくれたのだろうと察していながらも、つい皮肉めいた言葉が出てしまう。
だが、それを咎めるでもなく、シルバープレアーもまた苦笑と共に言葉を返してきた。
そして。
「あー……そうだ、ひとつ聞きたいんだけど」
「なんだ」
「
にこりと目の前で薄ら寒いほどの笑みを浮かべる顔を見て、はくりと震えた息が出る。
きっと。
バレットシンボリが教えられたのと同じように、シルバープレアーも教えられているのだろう。
───あの場所に、自分たちが求める存在が
シルバープレアーは輪をかけて、"その存在"に対しての執着が深い。
今では同じような執着を向ける相手がいるにはいるのだが、それでもまだ足りないらしい。
…あるいは、それすらも。
「さてね。…でも、他人に聞くよりかは自分で確かめた方がいいんじゃないかい」
「…うん、そうだね」
それだけ聞ければ満足だと言わんばかりに踵を返し、「じゃあまたね」と言い残して去っていく後ろ姿を見ながら……バレットシンボリはその背を見送ることなく、視線を前に向け直す。
日が経つにつれ、薄れていく記憶をなぞっては己の中に刻み込むように。
「…………」
ふぅっと深く呼吸をして、集中力を高めていく。
頭の中にある記憶通りに身体を動かすためのイメージを固めながら、ゆっくりと足を踏み出した。
*
キミなら。
僕みたいに、勝負を捨てられることはないんだろう。
迷っている風に見えて、キミの走りははじめから確固たるものなのだから。
それが僕は。
同期×2:
シルバープレアー&バレットシンボリ。
はじめから逃げウマと途中から逃げウマ。
お互いに"あるウマ"に憧れてはごちゃごちゃ。
"あるウマ"を視界に映せて羨ましいと思うウマと"あるウマ"に教示ではなく勝負をしてもらえるだろうことを羨ましいと思うウマ。
…どうにもなんないですよ!
とはいえ、他の血筋メンツに教示してもらったってバレたらそっちのがヤバそうというか…。