さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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自分自身も、そして周りも。

───夢を、見たの。

脚を止めることができないほどに、熱く、美しい『夢』を…。



妖精は、美しい夢を見た

「お帰りなさい、プライド」

 

そう言って自分を出迎えた幼なじみ兼妹分にプライドシンボリは持っていたお土産の袋を取り落とした。

声を出しきれない喉がはくはくと空気を吐く。

青ざめて、冷や汗をかいてと忙しない自分に「大丈夫?」とかけられる声は嫌に可憐だった。

 

「凄いでしょう?この車椅子!」

 

銀色の車体が太陽光に反射しては目を焼く。

「どうして」と力なく呟けば「…よかった。知らされてなかったのね」なんて。

 

「ちょっとした、年貢の納め時だったってだけよ。私の脚が悪いのは幼なじみなんだからよく知ってるでしょう?」

 

たしかに。

幼なじみの、メジロシルフィードの脚は昔から悪かった。

自分ともうひとりの幼なじみ-サクラスタンピードが走っているのを窓辺から見ていた彼女。

その手を引っ張ったのは、自分だった。

同じ景色を一緒に見てもらいたかったから。

だから。

 

「あの時、あなたとスタンのふたりでお母様を説得してくれたこと、とても嬉しかった。私のことを想うお母様のことを想って夢を諦めようとしていた私にとってどれだけ救いになったことか……」

 

───ああ、そうだ。

彼女は自分の大切な親友だ。

そして自分は彼女のことが大好きなのだ。

だからこそ、こんなにも辛いのだ。

 

「…ありがとう、プライド。私は幸せだったわ」

 

そんな風に笑う彼女を見ているだけで胸が張り裂けそうになる。

諦めたくなかったろうに、自らの運命を呪っただろうに。

もはや泣き跡さえない顔に、彼女は彼女自身で踏ん切りをつけてしまったのだと理解する。

 

「ごめんなさい、お父様に呼ばれているの。また後で話しましょう」

 

そう言って去って行く彼女に何も言えなかった。

ただただ、その背中を見送るしかなかった。

 

 

メジロシルフィードにとって幼なじみふたりは救いであった。

「脚が弱いから」と走ることを超えて外に出ることすら禁止されては、その言葉に粛々と従っていた自分を外に連れ出してくれたのはそのふたりだった。

まだ幼くて無邪気なふたりは、自分が見ることを諦めていた世界を見せてくれて、そのたびに新しい感動を与えてくれた。

それが楽しくて仕方がなかった。

いつの間にか自分もふたりのように走れたらと思うようになっていた。

 

「いつかきっと、三人で走れる日が来る」

 

…救いだった。

どうしようもなく、救いだった。

だけどそれは叶わない願いになった。

 

「…」

 

脚を撫でる。

リハビリをすれば補助ありではあるが歩けるようにはなる脚を。

もう二度と、走れなくなった脚を。

 

「ごめん、ごめんなさい、ごめんなさい…ぷらいど、すたん(ふたりとも)…!」





ごめんね。

【風の妖精】:
メジロシルフィード。
生来の脚の弱さ故にトレセン学園に入ったこと自体奇跡だったウマ。
幼いころは過保護な母に箱入りに育てられていたがある日目が合ったプライドシンボリ、サクラスタンピードのふたりに外に連れ出される。
それから幼なじみ三人組になっては、過保護な母を説得してくれた幼なじみふたりと共にトレセン学園に入学し…という流れ。
リハビリさえすれば補助ありとはいえ、歩けるようになるらしいが…?

あなたたちと一緒にいられない(走れない)脚なんて、意味、ないじゃない…。

【一等星よりいずる誇り】:
プライドシンボリ。
幼なじみにおみやげを渡しに来たら…なウッマ。
【風の妖精】が海外遠征したことすら知らなかったので、本人の口からあれやこれやを聞かされてはSANチェック(【風の妖精】としては先に海外遠征していた【一等星よりいずる誇り】に海外遠征がてらサプライズで会いに行こうと計画していた感じ)。
この再会後より結構な頻度でこの時の【風の妖精】の力ない微笑みの悪夢を見ることになる模様。…寝不足気味だぁ。
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