──では、
ぐっしゃぐしゃだよもう!!!!
…んで、その全部轢き潰し情緒破壊野郎は自分の両親とほぼ同年代という、ね。
別に舐めているつもりではなかった。
その昨年の、訳の分からないワールドレコードの話はこちらにも流れてきていたし、そのレースの録画だってバカみたいに飛び交っていた。
そんな注目のウマが遠路はるばる遠征に来たと話が持ちきりになったのは春のこと。
普通よりも年老いた相手に「まぐれ」だとか、「どうせすぐ消えるだろ」とか、そういう言葉を投げかける奴らは確かに多かったと思う。
けれど。
されど1秒。
引きちぎられ、引き離され。
その背だけを、見せられた。
大部分が黒地に、黄色と白のコントラストの勝負服が目を焼く。
あんなに綺麗な色を俺は知らない。
まるで夜空に輝く一等星のような、あの輝きを知っている者はどれだけいるだろう?
あれからずっと考えていたんだ。
俺には何が出来るのかって。
だから決めた。
凱旋門賞。
そのウマと走るのは2回目。
そのウマの祖国にとって、凱旋門賞というレースは『悲願』であると調べて知っていたから。
最高潮に調子を持っていくとしたら、
そしてそれは正しかった。
俺は今日、この瞬間のために生きてきたんじゃないかってくらいに最高の気分でここに立っている。
(バカだな)
お前の走りを"あの日"見た俺はお前の後ろを付かず離れず追走することを選んだ。
だが大半のウマはお前を差し切るために脚をためる方向に走っている。
もう一度言おう。
(脚をためてたら差せるなんて、コイツがそんな簡単なウマなワケないだろう!)
そんなウマなら、こんなところまで来れるはずがないじゃないか。
俺が…
俺だって曲がりなりにも2国のダービーを制したウマだ。
そう簡単に追いつけるとは思わないことだ。
それに───。
(まだバテない…)
今日も今日とてレースを掌握しているのはコイツで、そこそこのハイペースを刻みながら後ろにいる俺を見ることもなく先頭を走り続けている。
しかし、それこそが狙い通りなのだ。
何故ならば今日の最終コーナー手前までは、このレース展開になるように仕向けたからだ。
だが。
このままでは勝てないと悟った俺は、ここから仕掛けることにした。
いま、一気に加速して───。
『楽しかったよ、ありがとう』
……は?
瞬間、突風が吹く。
また、背中が遠ざかる。
無意識に伸ばした手は、爪ひとつ引っ掛けることが出来ずに空を切り。
「いやだ」
思わず漏れ出た声は、風に攫われて消えていく。
「待ってくれ!」
叫びと共に駆け出した足は、一歩踏み出すごとに重くなる。
「頼む!!」
それでも止まらない。
いや、止められなかった。
…故にゴール板を通り過ぎてもなお、その背を追い続け。
しかし。
そのウマの顔を、ついぞ見ることは───。
───その
そのウマ:
人呼んで『
まるで黒い絵の具をぐちゃぐちゃに塗ったようなオーラをしては。
顔も影も無いとしかいいようのない走りを以て、総てを平等に
真剣さも、夢も、野望も、何もかもを。
だがそれが夢幻になるのかは……"世界"次第の話であるが。