さよならはまだ言えない   作:芦毛スキー

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世間一般から見たら"正常"で、でも血縁から見たら【異端】なんだ。



『普通』の人

俺の家は馬に関わる仕事をしている人が多かった。

父親は俺が生まれた頃にはもう調教師だったし、親戚も厩務員だったり、そういった関係の記者をしていたりした。

そして、みんながみんな馬を愛していた。

……それが、俺は怖かった。

 

いつだったろう。

自分の血筋が"馬狂い"なんて呼ばれていると知ったのは。

俺は、自分でもなんだが『普通』の子どもだった自覚がある。

仲のいい子がいて、放課後は宿題もほっぽり出しては日暮れまで遊ぶ日々。

だが。

 

『にーちゃん!』

『なぁに、』

 

俺が、ずっと、遊びたかったのは透兄ちゃんだった。

やさしくて、穏やかで、いつも笑ってる。

そんな、誰もが憧れるような理想の兄。

けれど、兄の視線の先にあるのはいつだって。

 

『…また、馬見に行くの?』

『…?うん』

 

外で毎日遊び回っていた俺と違って白い肌の兄が「何を当然なことを」という風に首を傾げる。

兄は、馬を愛していた。

父が馬を愛するように。

そんな父と兄に母は何も言わず。

それこそが、我が家の()()なのだと理解した時、俺は自分がおかしいのではないかと悩んだものだ。

だから、あの日。

悩みに悩んで、坩堝に落ちて久しくなったあの日。

 

『兄ちゃんなんて、大ッ嫌いだ!』

『…そう』

 

大好きだった兄の、心底お前に興味などない、という目が俺を射抜き…。

 

 

逃げるように家を飛び出してから、俺はありふれた幸せを築いた。

可愛らしい妻と子宝にも恵まれた。

けれど、妻も子も俺の家のことをよく知らない。

多少理解はしていても、ちょっと気難しい父と静かな母とやさしいおじさんがいる…ぐらいの認識だろう。

 

『ねぇ、父さん!』

 

親類の牧場にて馬に触れさせてもらった息子-遥が俺に駆け寄る。

はじめて近くで見て、触った馬に大興奮だ。

その様子に苦笑しながら頭を撫でれば嬉しそうな声が上がる。

 

『どうしたんだ?』

『おれ!大きくなったら馬の仕事する!』

 

目をキラキラさせて将来を語る息子の顔を見て、俺は少しだけ泣きそうになった。

だって、あの頃の兄の顔と同じ顔をしていたから。

野球選手になりたいと答える俺の横で、いつもと変わらない穏やかな顔をしながらも目だけはキラキラと輝いていた幼き日の兄の姿を。

 

『…父さん?』

 

幻視したから。

 

俺は、兄さんと普通の兄弟になりたかった。

ただそれだけなのに。

──なんでこんなことに?

なんて。

今更嘆いても仕方がないのだけれども。

 

「父さん」

 

精悍な顔つきになった息子が、緊張した面持ちで、俺の前に立つ。

 

「俺、騎手になるよ」

 

そう。

固い声で告げた息子に俺はただ、震える声で「そうか」と言うしかなく…。

 

「頑張れよ」

「…!うん!」





白峰弟:
白峰家次男。白峰透の弟。馬は『普通』に好き。
"馬狂い"の血筋だけど狂わされていない。逆に家族親族の狂いっぷりに恐れを感じていた様子。
普通に生きて普通の幸せを手に入れた人間だが、実兄である白峰透と普通の兄弟になりたかったという悔恨をずっと胸に残している。
たぶんやさしい兄の目を奪う馬にずっと嫉妬していた系弟。

また息子である遥が馬に魅せられたのに口元を引き攣らせた系パパでもある。
…狂気に浸れなかった人間って、そう思うとなんか可哀想だね。
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